人類の歴史はどんどん解明されている

最近、岩波現代全集の新刊本「DNAで語る日本人起源論」(著者=篠田謙一・国立科学博物館人類研究部長)という本を読んだ。筆者は高校時代、55万年前の北京原人に代表されるような東アジアの原人が新人に発展して、日本人の先祖となったとの教えを受けた記憶がある。それが現在では、違う学説が定説になっている。それでは、人類の歴史を紹介する。

先ずは、原生人類ホモ・サピエンスであるが、20世紀末まで「100万年以上前にアフリカを出て、旧大陸の各地に広がった原人の子孫」(多地域進化説)だと考えられていた。ところが、1980年代後半からは、アフリカでの化石人骨の再検討によって、ホモ・サピエンス自身もアフリカで誕生したという学説(新人のアフリカ起源説、出アフリカ説)が提唱されたが、この学説を支持したのはミトコンドリアDNAの分析である。

要するに、ホモ・サピエンスは、20万年前にアフリカで誕生して、アフリカを6万年前に出た。アフリカを出られたのは、せいぜい数百から数千だった。

アフリカを出たホモ・サピエンスの人骨は、アフリカと中東を除くと、意外なことにアフリカに近いヨーロッパではなく、東南アジア(ボルネオ、4万5000年以上前)やオーストラリア(4万6000万以上前)から出土している。つまり、当時は氷河期で、2万年前の最終氷河期には、現在より海水面が120㍍ほど低下して、東南アジアにはスンダランドという陸塊、また、オーストラリアもニューギニアと一体化して、サフールランドと呼ばれる大陸だった。当時の東南アジアは、人類にとって最も住みやすい環境にあった。

その後の5万〜4万年前には、東アジアには、東南アジアから北上した集団、ヒマラヤの北方を廻った集団、両者の混合による集団が成立した。このほか、最終氷期の最氷期以前には、ユーラシア大陸の西方からバイカル湖周辺にいたる地域へ、ヨーロッパ系集団の移動があった。

さて、日本人であるが、現在では考古学的な証拠から、4万年ほど前の後期旧石器時代には原生人類が日本列島に居住していた。現時点では、3万年をさかのぼる旧石器の遺跡は、日本列島全体で約500か所が認められている。

さて、さて、皆さんは、縄文時代は今から何年前から始まったと教えられたのか。本によると、今から1万6000年前から縄文時代、3000年前から弥生時代が始まった。筆者の高校時代は、縄文時代は数千年前、弥生時代は二千二三百年前であったと記憶している。随分と、遠くまで遡ってしまったものである。

最後に面白い文章を紹介します。

「日本列島に最初にホモ・サピエンスの生活の痕跡が現れるのは、今から4万年ほど前になります。この日本列島の人類史4万年を1年に喩えると、縄文時代の開始期は8月15日あたりになります。この縄文時代は3か月半ほど続き、12月4日に弥生時代が始まることになります。そして弥生時代が終わるのが12月15日で、鎌倉時代が終わるのがクリスマスです。明治時代以降は12月31日の大晦日1日に相当します。つまり、これまで比較的長いスパンで考える人類学でも、列島の人類史を11月半ばからスタートさせて考えていたことになります」

この文章を読んで“なるほど"と思ったが、この手の解説は、地球史46億年を365日や24時間に縮めた時、ある生物の年代が何日何時何分に当たるのかを表した帯グラフがある。それと同じで、日本列島の人類史も帯グラフに置き換えると、わずかな時間しか解明されていないのだ。