陸上男女一万㍍の日本記録樹立を受けて

男女の五千㍍、一万㍍、三千㍍障害の「第104回陸上日本選手権・長距離種目」が12月4日(金曜日)、大阪・ヤンマースタジアム長居で行われたが、この催しはNHKBSで生放送されたので、吾輩も最初から最後までテレビで観戦した。特に一万㍍では、男女とも日本記録が誕生したほか、女子は出場21人中12人、男子は出場48人(外国人選手は含まない)中25人が自己記録を更新したことで、近年まれにみるハイレベルなレースとなった。

翌日、報道内容を楽しみに、購読している朝日、読売、産経各紙を読んだが、期待はずれの内容であった。それでも、前日の興奮冷めやらぬ状態で、ショートメールをメル友に送信した。

ー昨日の陸上日本選手権は、久しぶりに興奮した。ご存じの通り、男女一万メートルで日本新記録が樹立された。やはり、世界記録や日本記録が更新されるレースは興奮するし、楽しい。

ということで、翌日配達される朝日、読売、産経を読むことを楽しみにしていた。しかし、残念ながら吾輩が゛知りたかった事゛が何も書かれていなかった。というのも、レースを観て驚いたのは、男子一万メートルでは、ほとんどの選手がナイキ社製のピンク色のシューズを履いていたからだ。吾輩は競技者ではないので、詳細なことは知らないが、昔からトラックの長距離種目でも、選手はスパイクを履いていた。だから、ほとんどの選手がシューズには本当に驚いたのだ。

昔から長距離種目では、トラック向き、ロード向きという選手がいたが、その背景にはスパイクとシューズという面もあったと思う。吾輩がいいたいことは、おわかりと思うが、新聞にはシューズについて何の解説もないのだ。

ロード用に素晴らしいシューズが開発されたので、来年以降の長距離種目は、中学生、高校生を含めてトラック競技でも、シューズで競技に向かうことになる。長距離トラック種目に革命が起きたのだ!ー

その後も、ネットでレース状況の把握に努めたところ、女子選手は出場21人中14人、男子選手は出場51人中43人が“ナイキ製のシューズ"を着用し、18年ぶりに日本記録を更新した女子の新谷仁美(積水化学)、男子の相澤晃(旭化成)と伊藤達彦(ホンダ)も、当然のことに同スパイクを履いていた。また、陸上ファンの中には「過去にこれだけレベルの高い日本選手権はなかった。それを考えると、来年以降もコンディションが良好な12月に開催するべきだ」という意見も投稿されていた。いずれにしても、詳しいことは、14日発売の陸上競技専門誌「月刊陸上競技1月号」(㈱講談社)で知ろうと考えた。

だが、その前に米スポーツ用品大手のナイキ社製の“高速シューズ"を見たくなり、週が替わった月曜日に柏市でスポーツ専門店を探した。ちょうど、街中に「陸上競技専門店」という看板を掲げた店を発見したので、中に入って若い男性店員に「ナイキ製の高速シューズはどこに置いてありますか」と尋ねると、置いていないという返事。

店員の話しでは「ナイキ製の靴には、ロードレース用のシューズと、トラック用のスパイクがあり、シューズは3万円くらいで、スパイクは1万8千円くらいで売られている。しかし、入荷するとすぐに売れてしまうので、ナイキの靴を見たければ、都内のスポーツ店に行かなけはならない」という説明であった。そういうことで、日本選手権に出場した選手たちは、ナイキ製のスパイクを使用したようだ。

さて、楽しみにしていた「月刊陸上競技1月号」が昨日発売されたので、さっそく読んでみた。しかし、記事の見出しは、

ー女子一万㍍/新谷30分20秒44!日本記録を28秒45も更新/今季世界2位の快記録で「世界」への手応え一

ー男子一万㍍/相澤、激走!東京五輪つかむ27分18秒75の日本新

と大きく掲載していたものの、本文の中に一言も“高速スパイク"のことが書かれていない。ただ、編集後記に「特に長距離はシューズの進化があるとはいえ、今までの記録の概念が崩壊するほどの勢いだ」という文面はあった。

また、雑誌では高校男子五千㍍で1989年に高校生史上初の13分台をマークした以降の、年ごとの13分台の人数を紹介している。それによると、高校トップレベルの証しである13分台が、今季は過去最高だった2010年の12人を大幅に上回る21人(11月30日現在)という。その要因の一つは明らかにシューズで、何も成人選手だけが大幅に記録を伸ばしているわけではなく、世代を問わず日本の長距離界は一気にレベルが上がったのだ。

以上のような現状を考えると、既に陸上関係者にとっては、ナイキ製の高速スパイクや厚底シューズを話題にする時代ではないのかもしれない。つまり、新谷選手が「走るのは選手であり、靴ではない」などという発言を聞くと、選手も関係者も月刊誌も、いかに近代的な靴を履きこなすか、という段階に至っている感じを受ける。