王子イーグルスのクラブ化は時代の流れ

アイスホッケー界を応援している吾輩としては、まずは次の「北海道新聞」(10月2日付け)を紹介しなければならない。

ー王子、来季クラブ化 アイスホッケー 支援は継続ー

製紙最大手の王子ホールディングス(東京)は1日、アイスホッケー・アジアリーグに参戦している王子イーグルス(苫小牧市)を来季からクラブチーム化すると発表した。来年4月に運営会社を設立、入場料収入や地元企業などならのスポンサー収入で独立採算を目指す。同社も資金援助を続けるという。

同社は「廃部や運営費の削減などが目的では全くない。企業依存ではなく、地域密着で地元の人々を巻き込み、アイスホッケーの人気回復を図りたい」(広報IR室)と説明している。10日に開幕する今季のアジアリーグジャパンカップは企業チームとして活動し、来季は社員選手が運営会社に出向する形でプレーする。チーム名は今後検討する。

以上の記事は、ネットで知ったが、まず感じたことは「国内のアイスホッケー界は、遂にここまで追い詰められたか」というものであった。しかし、一瞬考えた後、国内のサッカーやバスケット、そしてラグビーなどの球技団体スポーツが、地元ファンをターゲットにした地域密着型のクラブ運営が主流になってきている中で、逆に“いいチャンスかもしれない"と考えた。

そもそも「日本リーグ」の名前を記したアイスホッケーは、サッカーに次ぐ長い歴史を誇り、国内の実業団5チームによって1966年に発足した。90年代以降になると、リーグ発足時から加盟していた古河電工(99年)、雪印(2001年)、西武(09年)が、相次いで親会社の経営不振を理由に廃部になった。そして19年には日本製紙の廃部で、04年まで存続した日本リーグ時代から母体が企業として活動していた実業団チームは王子イーグルスだけであった。

現在、国内チームは5チームあるが、古河電工は「栃木日光バックス」、日本製紙は「ひがし北海道クレインズ」という法人や個人などのスポンサーが支える市民クラブとして活動している。このほか、選手が企業で働きながら活動する「東北フリーブレイズ」と、09年に廃部となった西武以来、今年首都圏のチームとして加盟した「横浜グリッツ」(19年5月発足、競技活動と仕事の両立を目指す「デュアルキャリア」を掲げる)というクラブチームがある。

王子イーグルスのクラブ化には、超えなくてはならないハードルがいくつもある。例えば、09年に廃部した西武の年間運営費は約5億円とされたが、クラブ化になっても約3億円の運営費が必要になる。そのためには、まずは日光アイスバックスの経営が見本になるが、運営会社を設立して地元の熱烈なファンを会員として確保しなければならない。会員には、ホームゲームのシーズンシートや指定席を優先的に買えたり、会員向け各種イベントに参加できたりするなどの特典を設ける。さらに重要なのは、200社を超えるスポンサーを獲得することだ。

このほか、東北フリーブレイズの経営状況(「読売新聞」〈19年2月1日付け〉)を紹介すると、母体はスポーツ用品販売大手の「ゼビオ」、選手23人のうち社員は4人で、外国籍の4選手をのぞいた15人はオフに他企業で働く選手もいるが、チームから収入を得ている。スポンサーは年々増加し、3季前の76社から昨季は100社を超えた。年間運営費は約3・3億円だが、現在は8割がスポンサー収入で賄っている。

王子製紙アイスホッケー部は、1926年(大正15年)に王子製紙苫小牧工場の従業員による同好会として発足した、日本で最も歴史があるチームである。本拠地が「氷都」苫小牧であるので、ファン獲得は心配していないが、問題は長年にわたり王子製紙という大企業に支えられてきた街であることから、“王子任せ"、“他人任せ"ということでスポンサー獲得に苦労するのではないか。自分たちが、このチームを“支える"という気持ちを、多くの地元企業に持ってもらうための営業活動強化が最も重要だ。いずれにしても、王子製紙というか、苫小牧市のチームがアイスホッケー競技を盛り上げてくれないと、日本のアイスホッケー文化は崩壊する。それを考えると、王子イーグルスのクラブ化を大きなチャンスとして捉え、競技人口(約1・8万人)や競技チーム数(約800)を増やし、さらに観客数の増加に繋げなければならない。

ところで、国内のアイスホッケー競技を盛り上げるためには、どうしても以前はホームタウンだった首都圏や札幌、大阪といった大都市にもチームが必要である。そういう中で、今年2月に完成披露した「有明アリーナ」(座席数は約1万5千席)は、五輪後の活用法として、冬はアイスリンクを整備し、フィギュアスケートやアイスホッケーの国際大会を誘致する計画もあると聞く。さらに東京五輪後、秩父宮ラグビー場は、多目的に使用できる全天候対応の屋根付きアリーナ型で新設(26年初めに完工予定)する方針を固めたという。そのような報道に接すると、是非とも「東京にアイスホッケーチームが発足」という報道を聞きたいものだ。

スポーツに関しては、いっも楽しく、楽観的な方向で書いているが、一番問題なのは、この“王子のクラブ化の発表"を無視する首都圏の主要メディアである。北海道のメディアだけが報道していれば、本当に国内からレベルの高いアイスホッケーの試合が見られなくなることを自覚するべきだ。王子のクラブ化が成功して、高額のプロ選手が増加すること願ってやまない。