安倍政権は官僚機構をガタガタにした

吾輩は、以前から安倍首相の対ロシア外交(プーチン大統領と27回面談)を批判してきたが、その本人が8月28日に辞任する意向を表明し、遂に歴代最長政権は終焉する。9月1日にはグッドタイミングで、購読している情報誌「選択」(9月号)が郵送されて、連載記事「日本のサンクチュアリ」の中で、安倍政権が霞が関の“官僚機構をガタガタ"にしている現状を解説しているので、まずはこの記事から紹介する。

安倍最長政権ー歴史的成果「ゼロ」で終わった理由

(前段略)

〈実際は寡頭制の「官僚主導」政治〉

黒川(弘務・元東京高検検事長)氏のような存在がなぜ生まれたのか。背景に安倍政権の二つの構造的特徴がある。一つは内閣人事局が官庁幹部約600人の昇進を一元管理する体制だ。政治主導とは言うが、官邸からの無理難題を渋れば出世は終わる。「私ならこんなことができます。どんなことでもやります」と官僚が我勝ちに売り込み合戦を始めるのは目に見えていた。黒川氏ほど突出していなくても、「ミニ黒川」が8年間に山ほど出世してきた。当然、各省人事・職分秩序は乱れる。その結果、各省が本来やるべき地味な課題は脇に押しやられる本末転倒が起きる。財務省が財政健全化路線を放棄して官邸主導の下僕と化しているのが典型だ。人事の過度な政治的一元化は、行政府を蝕む毒をまき散らす。

もう一つ、各省の地盤沈下・意気阻喪と裏返しで内閣官房内閣府が異常に膨れ上がる頭でっかち現象が起きる。「官邸主導」が始まった2001年の小泉政権現在までに、内閣官房の実質的な職員数は実に3倍、内閣府は約4割増まで膨張している(定員の関係で各省との併任を含む)。各省局長が内閣府幹部へ異動するのは珍しくなくなった。意欲的な若手も内閣直属への異動を希望する。そこで目をかけられることが出世の早道だからだ。内閣官房内閣府では各省横断のプロジェクトチームが無数に編成されては壊され、各省の人材と仕事はスカスカになる。流動化を超えて荒廃する。

典型的なのが、コロナ対策で官邸からさんざん無能呼ばわりされる厚生労働省だろう。無理からぬ批判もあるが、官邸主導体制が各省を弱体化している面も大きい。内閣官房内閣府に雑然とテーマ別の「ミニ霞が関」がもう一つある二重構造となっているので、効率を追うはずが効率を下げる悪循環にはまってしまう。今井尚哉首相兼首相補佐官が重用する司令塔の新原浩朗経産省経済産業政策局長兼内閣官房日本経済再生総合事務局長代理補が、コロナ対策で経産省を介し電通など「ソリューション企業」に官業を高価な委託費で丸投げしていたのもそのためだ。こうなると、黒川氏や新原氏のようなひと握りのスーパー官僚が現れるのは必然であった。

コロナ対策で露見した呆れるばかりの行政の目詰まり、相互不信、無責任さは、安倍政権の官僚主導がいかにゆがんでいるかを白日の下にさらした。長期政権の弊害であり、安倍首相が結局、何も歴史的成果を残せない最大の原因だ。官邸主導は本来、法案事前審査制など政策決定において政府より与党に決定権が偏っているのはおかしい、「政高党低」に正すべきだという政治改革の目標の一つだった。族議員を使った官僚主導の政策作りを政治主導に改める狙いだったが、安倍政権の官邸主導は、極端な寡頭制の官僚主導だった。

〈「首相の見せ方」に専念した官邸官僚〉

寡頭制の頂点に君臨するのは、安倍首相の再登板以来、8年近く一度も異動せず官邸に盤踞する今井氏と北村滋国家安全保障局長(前内閣情報官)、長谷川榮一首相補佐官兼内閣広報官の面々。官僚出身だが、首相から個人的に信頼される「家の子郎等」的存在だ。御厨貴東京大学名誉教授は、安倍政権の本質を「やってる感」を出すことと表現するが、彼らの目的はもっと割り切って「首相の見せ方」に専念してきたのが実態である。

(中略)

今井氏は新原氏を内閣府に引っ張った14年から、キャッチフレーズ作りも任せてきた。「一億総活躍社会」も「働き方改革」も「人生百年時代」も新原作である。演説作りも経産省から抜てきした佐伯耕三首相秘書官の原稿を見るだけ。途中から関心を外交に移してきた。安倍首相の最大の関心事であり、世論が安倍外交を評価していたからと言えばそれまでだが、外務省が従順なのをいいことに、外交の基本方針を時々の都合や思いつきやハッタリで引っかき回した。日米、日露、日中、日韓、日朝、日印、G7(主要国首脳会議)…。辞めた谷内正太郎国家安全保障局長は何度も抵抗したが、安倍首相が今井氏の言いなりなので為すすべなく官邸を去った。その結果、得意だった外交でも何の成果もないまま政権は終わる。中でも北方領土で無原則に譲歩した対露外交は、首相が秘書官に引きずられた空前の大失態である。「見せ方」にこだわるあまり、政策の本筋を見失い、というより初めから持ち合わせず、気が付けば経済も外交も社会政策もどれもがつまみ食いの食べ

散らかしに終わった。

〈今井尚哉・北村滋が負う「結果責任

「見せ方」本位の底の浅さは、北村氏が自慢の「首相と最も面会回数の多い官僚」という称号を象徴的に表れていた。内閣情報官とは元来、首相に週1回、緊急時でも多くて2回報告するだけの禁欲的な職務だった。それが諜報機関トップの慎みであり、民主主義政治が長い経験から学んだ権力との必要かつ適切な距離感なのである。北村氏はその禁を破った。番記者に姿を見せず首相に会っている面会者はたくさんいる。北村氏はことさら「自分が一番」と見せつけてきたわけだ。その動機を、元警察庁長官たちは「自分が警察官僚人事の序列を外れ、首相の寵愛を受けた特別な存在であると見せつけるため」と苦々しげに解説する。効果はあった。一時狙った杉田和博官房副長官の後釜はさすがに無理でも、破格の国家安全保障局長に就いたからだ。「外交・安全保障の心得もない警察官僚に務まるか」という批判をはねのけるため、トランプ、プーチン両大統領に相次ぎ単独で面会したのもご愛敬である。それどころか今井氏に近い北村氏は、内閣情報官在任中から「今井外交」の方針決定に

参画してきた。安倍外交が何ら成果なく終わった以上、今井、北村両氏が負う結果責任は、罪万死に値すると言って過言ではない。

本稿前段で紹介した黒川氏と北村氏は、17年の「共謀罪」法成立に向けた国会対策を介してよしみを通じて以来、多くの問題で協力関係にあった。黒川氏は菅義偉官房長官・杉田副長官の直系とされたが、北村氏は多方面に網を張って、安倍首相や今井氏もあずかり知らない影響力と生き残りの保険を掛けている。「ポスト安倍」が誰になったとしても、北村氏は留任できるよう伏線を常に張り巡らし周致に立ち回っている。官邸官僚たちは、「中臣」の分を捨てて、すでに自己保身に余念がない。

誰が記した記事であるかは判明しないが、分かり易く現在の霞が関の現状を解説してくれている。特に、内閣官房内閣府の職員数が膨張していることには納得した。なぜなら、新聞を読んでいると、やたらに“内閣官房"とか、内閣府に異動する幹部職員が多いのだ。これでは、内閣官房内閣府に「ミニ霞が関」がもう一つあるというのには納得する。そう言えば昔、先の大戦での軍部や、最近では大企業の研究開発部門で、指示系統が2つあるために混乱したという話しを聞いたことがある。

続いて、以前にも批判した官僚、今井と北村のことだ。今井は、外務省が従順なのをいいことに北方領土問題で主導権を持ち、これに対して谷内が何度も抵抗したと本文で記している。これと同じように、官邸から離れたのが元外務省事務次官・斎木昭隆で、その結果、人間性に疑問を持たれている杉山普輔が現在の駐米大使を務めることになった。今月号の「選択」でも「コロナ禍でパーティ三昧の『裸の大様』」と茶化されている。要するに、直言する気骨のある外交官が去り、ヒラメ外交官が出世しているのが現状である。

北村に関しては、安倍首相の寵愛を受けた人物と見せつけるために、新聞記者がたむろしている官邸入口から入り、という話しには笑ってしまう。また、北村はトランプ、プーチンのほかにも北朝鮮諜報機関幹部とも会っているが、外交経験(フランス語は堪能)がなく何をしたいのか、さっぱりわからない。後輩から聞いた話しではあるが、内閣情報官時に部下を呼び出し「君は能力がないのだから、その範囲で仕事をしてほしい」旨の指導をしたという。果たして、見識のある人物かと疑うが、この程度の人物を引き上げたのは安倍首相である。このほか、黒川のことも本文で記しているが、これまで何回も書いているのでカットする。

最近注目する報道があった。米国の有力な研究機関が「今井が長年の親中派とされる自民党二階俊博幹事長と連携し、『二階・今井派』として首相に中国への姿勢を融和的にするよう説得してきた」という報道だ。米中対立が激しさを増している中であるので、もしかしたら安倍首相の辞任表明とも関係しているのではないか、という見方は考え過ぎか…。

ということで、本文の最後には「今井、北村両氏が負う結果責任は、罪万死に値する」と文面には、吾輩も支持するものである。そして、なんとなく来年の東京五輪後には、安倍政権の中枢の中から逮捕者が出てくる感じを受けるが、これも考え過ぎか…。

(敬称略)