中国共産党は豪州の属国化を目指している

最近、中国とオーストラリアとの関係が騒がしいので、書名「目に見えぬ侵略ー中国のオーストラリア支配計画」(著者=クライブ・ハミルトン、飛鳥新社)を読了した。しかし、視力が弱ってきた吾輩には、上下二段428ページもある書物を読み切るのは大変であった。本書は既に6万部発行と宣伝しているが、中身は中国共産党統一戦線工作部の在外華僑を使っての工作活動である。

それでは、なぜオーストラリアが中国共産党のターゲットになったのか、ということから始める。それを解説するのは、在シドニー中国総領事館の政治部代表だった陳用林(2005年に亡命)である。

ー一つ目はオーストラリアの地政学的な位置関係である。これは「西洋諸国の最弱の鎖」というのだ。二つ目は大規模な中国人コミュニティーを抱えていることで、中国系移民は「中国と密接かつ多様なつながりを持ち、イデオロギー的な教育を受けていることが多く、そのほとんどは中国の優越心を共有している」のだ。そして三つ目はオーストラリアの多文化政策であり、これは北京に忠実な在豪中国人に「中国の価値観や習慣」を普及させ、それを中国共産党の立場を向上させるために利用できる。ー

それでは、そもそも中国共産党がオーストラリアをターゲットにした時期はいつなのか。

ーそれは中国が世界中に散らばる外交官たちをある秘密会議のために北京に集めた、2004年8月半ばに始められた。当時の共産党総書記であった胡錦濤はこの会議で、最高権力を持った党の中央委員会が、これからオーストラリアを「中国の周辺地域」に組み込むべきであると決定した。ー

要するに、中国共産党はオーストラリアを「第二のフランス」、つまり「アメリカに対してノーと言える西洋の国」にしょうと考えたという。

また、北京が隠そうと必死になっていた「中国の世界支配」を、いつ頃から意識しだしたのか。

ー2000年代初期に中国の経済力が拡大したことによって、すぐさま手の届きそうな望みとなり、とりわけ2008年の金融危機で西洋諸国の本質的な弱さや中国の独特な発展の優越性が明らかになったように見えた後には、ますます現実味を帯びてきた。〜そしてこのリーマン・ブラザーズウォール街による金融危機こそ、中国を「注意深く、控えめで限定的」な政策から、「明確に明言する野心的」な政策へと移行させるきっかけとなった。ー

従って、中国の外交・安保方針は、トウ小平が強調した「才能を隠して、内に力を蓄える」という「とう光養晦(とうこうようかい)」方針から、中国外務省高官の過激で好戦的な外交スタイルに重きを置く「戦狼外交」に変質したのだ。

次は、オーストラリア国内の話しである。政界や財界工作で最も影響力があり、昨年永住権を剥奪され、再入国を禁止されたのが、富豪実業家・黄向墨であった。その政界工作の中身の実態は、

ーオーストラリアに到着(12年か13年)してからというもの、彼と彼の会社は130万ドルもの額を労働党自由党の両方に献金したのに加えて、その家族や従業員、そして彼に近い関係者たちを含めると、その総額はほぼ290万ドルに達し、労働党には180万ドル、自由党には110ドルも献金している。ー

というもので、日本では違法な外国人献金を、こんなにも多く行っていたのだ。引き続き、中国人留学生の実態を説明する。

ー2017年7月には高等教育機関に留学している彼らの数が13万1000人となっているが、これは2008年当時の2倍だ。人口規模で比較すると、オーストラリアにはアメリカと比べて5倍の中国人留学生がいることになる。ー

中国共産党は中国人学生をコントロールし、中国の大学とのつながりをつくり、金満な中国人ビジネスマンによる献金を推進しながら、オーストラリアの大学キャンパスを使って海外にいるダライ・ラマ法輪功、そして民主化運動家らの批判者に対するプロパガンダ戦争を実践している。ー

つまり、留学生の4割が中国人ということを利用して、大学での中国民主化活動を押さえ込んでいることが解る。続いて、政財界工作だが、中には中国の工作活動に何の疑問も感じず、中国の経済活動に協力している大物が多いという。

ーボブ・ホークは1983年から91年まで首相を務め、キーティングはホーク政権の財務大臣として辣和を振るった人物であり、ホークの後任として91年末から首相となり、96年に選挙で負けるまで国を指導してきた。〜ホークとキーティングは政界を引退すると、信頼の厚い「中国の友人」となって、両国の間を行き来しながら政界の幹部や企業のトップたちと交流している。〜過去10年間のホークの主な仕事は、中国企業とのビジネスの仲介であり、2000年代半ばまでには5000万ドルを超える資産を得て「極めて裕福」になっている。ー

どこの国にも、価値観がズレていたり、先見性がない大物政治家がいるものだが、著者は「中国の友人」たちの意見を研究するうちに、ある一つの事実に驚いたという。

ーそれは、彼らの一部が、民主主義制度にほとんど価値を見出していない点である。政界、官僚、メディア、そして学界のエリートたちの中で、影響力の大きい人々の多くが、民主制度は「ぜいたく品」であり、むしろ「やっかいなもの」と考えているように見える。また、彼らは本当に重要なのは経済であり(中国と同じように)、民主制度はわれわれが演じている、見え透いた、ただの芝居にすぎないと見なしていた。ー

確かに、チャーチル元英首相が「民主主義は、これまでに試されたすべての形態を除けば、最悪の政治形態だ」と喝破しているが、それでも人権無視や言論・出版の自由がないマルクス・レーニン主義一党独裁国家に組するわけにはいかない。だから、著者も中国共産党による侵略から我々の自由を守るには、かなりの犠牲が伴うが「アジア民主国家同盟」を追求することによって、インド、日本、韓国、インドネシアニュージーランド、そしてオーストラリアという民主国家をまとめ、アメリカとのバランスの取れた同盟を形成することができる、と主張している。そのような危機感の背景には、オーストラリア(人口約2550万人)には中国大使館によって指揮されることなるであろう、100万人以上の中国系の人々がいることが挙げられる。

ということで、モリソン豪首相は7月1日、中国を念頭に今後10年間で国防分野に2700億ドル(約20兆円)を投じる計画を明らかにした。具体的には、米国から長距離対艦ミサイルを200基購入、音速の5倍以上の速度の超音速ミサイル開発、海上防衛に750豪ドル拠出、サイバー攻撃への対応のため150億豪ドル拠出、軍全体で800人増員ーなどである。オーストラリア政府も、やっと中国共産党の圧力を受けて、それに対応する政策を打ち出したと言える。

ところで、我が国もモタモタしていられない事態になった。それは中国海警局の船舶が、尖閣諸島の領海外側の接続水域に90日連続(7月12日で)居座り続けているからだ。また、習近平国家主席国賓来日を巡っては、自民党は「中止を要請せざるを得ない」ということで一端決着したが、日本も“親中派"の大物政治家に気を使って、玉虫色の表現になった。日本も、オーストラリアの動向を心配している場合ではないのだ!