規模の小さな自治体に議会は必要か

最近、新刊「地方議員は必要かー3万2千人の大アンケート」(著者=NHKスペシャル取材班、文春新書)を読了したので、久しぶりに地方議会を取り上げる。吾輩は、以前から地方議会の存在価値、議員の質、そして膨大な議会費(全地方議会費4000億円)を問題視してきた。本書を読んで、改めて現在の地方議会の問題点が確認できた。

本書は、日本の地方議会1788(都道府県議会47、市議会792、町議会743、村議会183、区議会〈東京〉23)に所属する全議員3万2000人のうち、アンケートに回答してくれた議員2万人(回答率59・6%)の調査を基にした本だ。その最初の「議員が訴える“議会不要論"」という課題に、実に“4人に一人が議会不要と思うときがある"と答えている。詳しく説明すると、「議会は本当に必要か思うときがある」という問に対して、全体では25%、都道府県議16%、特別区議16%、政令市議12%、市議25%、町議30%、村議29%が「そう思う」と回答している。しかしながら、この数字でも高いが、本当の気持ちを推測すると、全ての議員別で5割増しではないのか、と考える。その理由は、アンケートの問いに「そう思う」という回答では、現在の職場「議会」を裏切ることになるし、将来的にアンケート用紙が流出することを心配して、回答を替えたと考えたからだ。

吾輩は以前から、地方の首長と議会の関係は、ビートたけしの名言「みんなで渡れば怖くない」ということではないのか、と思っている。つまり、首長の施策に問題が生じた場合、「議会の承認を得た」と言い逃れる機関という面があると見ているからだ。そして、議員の能力も、破綻した夕張市の多選議員の発言ではないが、「あんな分厚い予算案では、中身が良く理解できなかった」旨というレベルなのだ。

本書では、地方議員の実働時間を紹介している。地方議会は年4回の定例会と臨時会を開催するのが通例として、780市議会で年間会期の平均は89・4日、町村議会の場合は平均42・6日という。また、日本の地方政治は「二元代表制」と呼ばれているが、その実態は、

○想像しているよりもはるかに深刻な馴れ合い状況。

○2018年の1年間に、全国1788の地方議会で行政側の提案を一度でも否決したことがある議会は203議会。

○首長が予算も人事も握ってしまっているため、議会の役割は限られている。

ーと説明している。

さらに本書では、議員たちに「議会は本当に必要か」と問い掛けるとともに、3年前に「議員のなり手不足」ということで、高知県大川村(人口約600人、議員定数6)が注目された時の現状を紹介している。同時に、当時検討した「町村総会」の解説もしている。

ーこの「町村総会」は地方自治法の第94条で規定されている。

「町村は、条例で(中略)議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる」。通常、自治体は議会を置く事が法律で決められているが、条例を設ければ、総会でも良いことになっているのだ。

しかし、現行法上の実施例は1951〜55年に、東京・八丈小島にあった旧宇津木村(現・八丈島)で実施された一例しかないという“極めて異例"なものだ。いざ検討を始めると総会にどのように人を集めるのか、連絡や交通手段、採決の方法はどうするのかなど、課題が次々に現れた。結局、村長は発案からわずか3ヵ月で、検討を中断せざるを得なかった。ー

当時の大川村の住民の発言に「数百万人の大都市と、400人の村の自治のあり方が同じでいいのか」という言葉も紹介している。確かに人口が1千人未満の自治体は大川村を含め全国に28村、このうち10村が500人未満、その一方で東京都は人口が1200万人で、都議会(定数127)は、2019年度の当初予算は一般会計総額17兆4千億である。

ということで、吾輩は敢えて人口5千人以下の自治体では、有権者が一堂に会して予算案などを直接審議する「町村総会」設立を法律で明記することを提案したい。この規模の自治体であっても、年間5千万円くらいの議会費を計上しているので、議会廃止後は1千万円を予算をチェックする弁護士、公認会計士、税理士などに対する報酬費、さらに都市部住民から政策を提言してもらう意見交換費として支出したい。そのほかの4千万円は、子供たちのために支出したい。

そのように考えた背景には、現在のオホーツク管内の現状がある。吾輩の高校生時代には、斜里町留辺蘂町などは人口約1万8千人くらいと、それなりに大きな街であった。ところが、現在ではその半分、または4分の1まで人口が減少し、特に留辺蘂町などは北見市自治区(1市3町で合併した際の独自の自治区制度)となり、人口が大幅に減少して、5年後に留辺蘂高校廃止案が出されている。つまり、人口5千人以下の町村では、今後ますます高校が消える以上、どうしても交通費や下宿代が必要になるので、その助成として振り向けたいのだ。

ところで、以前から不思議に感じていることがある。それは地方自治の勉強会などに参加すると、どうしたわけか左翼的な思想の持ち主に限って、地方議会の定数削減や議員報酬の削減に反対する。さらに、左翼的な「朝日新聞」なども、前述の大川村が注目されると、社説にも取り上げて“民主主義の危機だ"と主張する。何故だろうと考えると、左翼系の人たちは、税金から収入を得る人たちが少なく、大きな政府を思考しているからか、と考えたのだ。

それでは欧米諸国を見ると、規模の小さな自治体の議会を中心に、無報酬のボランティアや、実費に近い底報酬で働く議員がいることがわかる。そこで、フランスでは6月28日、統一地方選挙の第2回投票(決選投票)が行われたので、同国の地方自治を見てみたい。フランスでは、3月15日には第1回投票を実施したが、第1回投票では約3万5千の自治体が実施したというから、計算してみると人口比では日本の約40倍の自治体が存在していることになる。そのようなことで、フランスには人口千人、二千人の自治体が多数存在するが、予算額は非常に少ない。以前、NHKテレビを見ていたら、フランスかスイスのアルプスの街・人口800人の自治体が紹介され、「住民総会」で物事を決定し、年間予算は1億円と報じていた。おそらく、日本ではこの規模の自治体でも、10億円以上の予算額があるハズだ。

欧米諸国は以上のような実情にあるが、誰も“民主主義の危機"だとは言わない。それを考えると、日本の左翼思考の人たちの見方は間違っており、香港を見れば解る通り“言論と出版の自由"こそが、民主主義にとって最も重要なことであるのだ。