欧米諸国は“戦勝国史観" を見直そうとしている

吾輩と同じ認識で国際情勢を見ている評論家・江崎道朗の寄稿文「戦勝国史観見直しの好機見逃すな」が、昨日の「産経新聞」に掲載されたので、まずは紹介する。

ー次々と公開される機密文章ー

ソ連を正義とみなす、いわゆる戦勝国史観を見直す動きが欧米で起こっている。

アメリカの草の根保守のリーダーであり、世界的に著名な評論家のフィリス・シュラフリー女史は2006年8月、私のインタビューにこう答えた。

「われわれはなぜ中国共産党政府の軍事台頭に苦しまなければならないのか。われわれはなぜ北朝鮮の核に苦しまなければいけないのか。こうした共産主義国家がアジアに誕生したのも、もとはといえば民主党のF・D・ルーズベルト大統領がヤルタ会談スターリンと秘密協定を結んだことに端を発している。よってソ連と組んだルーズベルトの責任を追及することがアメリカの対アジア外交を立て直す上で必要なのだ」

この発言の背後には、以下のような問いかけが含まれている。

・アジアでは現在、中国の軍事的台頭や北朝鮮の核問題が起こっているが、そもそもなぜこのようなことになったのか。

・戦前、われわれアメリカは、アジアの平和を乱しているのは「軍国主義」の日本であり、日本を倒せばアジアは平和になると信じた。だが実際はそうならなかったのはなぜなのか。

第二次世界大戦においてルーズベルト民主党」政権はソ連に対して好意的で、1945年2月のヤルタ会談においてソ連がアジアに進出することを容認した。その結果、ソ連の支援によって中国共産党政権や北朝鮮が誕生した。ではなぜルーズベルト政権はソ連に好意的であったのか。

この問いに答える機密文書がソ連の崩壊後、次々に公開されるようになった。

1989年、東西冷戦のシンボルともいうべきドイツのベルリンの壁が崩壊し、東欧諸国は次々と共産主義国から自由主義国へと変わった。ソ連も91年に崩壊し、共産主義体制を放棄し、ロシアとなった。このソ連の崩壊に呼応するかのように世界各国は、情報公開を始めたのだ。

ー対外政策に影響を与えたものー

ロシアは92年、ソ連コミンテルンKGBによる対外「秘密」工作に関する機密文書(いわゆる「リッツキドニー文書」)の公開を始めた。

この公開によってソ連が戦前から戦後、世界各国に工作員を送り込み、それぞれの国の政治に大きな影響を与えていたことが再認識されつつある。

アメリカ国防総省国家安全保障局(NSA)も95年、戦前から戦中にかけて在米のソ連のスパイとソ連本国との秘密通信を傍受し、それを解読した「ヴェノナ文書」を公開した。その結果、戦前、日本を経済的に追い詰めたルーズベルト政権内部にソ連のスパイ、工作員が多数潜り込み、対外政策に大きな影響を与えていたことが判明しつつある。

「なぜルーズベルト大統領はソ連のアジア進出、アジア共産化を容認したのか。それはルーズベルト民主党政権の内容でソ連のスパイ、工作員たちが暗躍していたからではないのか」

多くの機密文書が公開され、その研究が進んだことで、そうした疑問がアメリカの国際政治、近現代史、外交の専門家たちの間で浮上してきているわけだ。

しかもこのような議論を踏まえて国際政治を考える政治指導者が現れた。2016年の大統領選挙で当然した共和党ドナルド・トランプ現大統領だ。

ソ連の戦争責任問う欧米諸国ー

トランプ大統領ロシア革命から100年にあたる17年11月7日、この日を「共産主義犠牲者の国民的記念日」と定め、旧ソ連北朝鮮などを念頭に「共産主義によって1億人以上が犠牲になったがその脅威はいまだに続いている」と批判した。

欧州議会第二次世界大戦勃発80年にあたる19年9月19日、「欧州の未来に向けた欧州の記憶の重要性に関する決議」を採択した。

第二次世界大戦を始めたのはナチス・ドイツソ連であったにもかかわらず、そのソ連を「正義」の側に位置付けた「ニュルンベルク裁判」は間違いだとして事実上の戦勝国史観見直しを決議したのだ。

《時が、熱狂と偏見をやわらげた暁には、また理性が、虚偽からその仮面を剥ぎとった暁には、そのときこそ、正義の女神はその秤を平衡に保ちながら、過去の賞罰の多くにそのところを変えることを要求するであろう》

1948年、インドのR・パル判事が極東国際軍事裁判「判決書(反対意見書)」の末尾に記したこの「予言」がいまや現実のものになりつつあるのだ。

この好機をいかに活かすのか。大局を見据えた戦略的外交が求められている。

続いて、先週発売の「ニューズウィーク日本版」(2・25)から、見出し「アメリカとロシアの新冷戦が近づいているー最大の敵はイランでも中国でもない、欧州で静かに高まるロシア軍との緊張関係」という記事を紹介する。

ー昨年、イランとの緊張が最高潮に達していた頃、アメリカは軍事演習をこれまでに例がないほど連続して行っていた。演習は5月から9月末までの5カ月間にわたって29カ国の上空・周辺で実施され、その総数は実に93に上った。〜

昨年のこの演習は、2014年3月のロシアによるクリミア併合を受けた軍事力増強の総仕上げと言える。なかでも目立ったのは、高性能兵器の訓練に力を入れた点だ。欧州での演習の回数は同時期に行われた中国関連の演習の約10倍で、仮想敵がロシアだったことは明らかだった。〜

NATO加盟国国会議員会議の委員会の報告書によれば、ロシアが大々的に行った軍事演習の多くでは、欧州における戦争での核兵器使用がシナリオに含まれていたという。〜

ロシア国営タス通信はロシア軍機の緊急発進が過去3年で10倍になったと伝えた。一方、米空軍の機密文書によれば、NATO側の緊急発進は4倍に。6月にロシア軍機がバルト海を航行中のスペイン海軍の艦船に異常接近した際、NATOは激しく抗議した。ー

以上のような寄稿文や報道内容を紹介したのには、安倍政権が対露譲歩に転じたと見られる外交姿勢にある。つまり、日本は択捉、国後、色丹、歯舞という北方領土四島返還を実現させるためには、日本側に有利な国際情勢下でなければならず、何を焦って対露外交を進めているのか、という不信感があるからだ。だから、今後ますます国際情勢は、日本側に有利にはたらくし、逆に言えばロシアは、ますます欧米諸国と緊張関係に陥っていく。そして、日本にとって本当の敵は中国ではなく、ロシアであることを伝えたかったのだ。