今後の法務・検察人事スケジュールなど

前回、安倍政権が1月31日の閣議で黒川弘務・東京高検検事長(35期)の勤務を半年延長し、8月7日までと決定したことで、本命の林真琴・名古屋高検検事長が、先に誕生日の7月30日に定年退官することになったことを書いた。そこで今回は、今後の法務・検察の人事スケジュールを占ってみた。

まずは、定年退官者であるが、

○3月27日に、小川新一・広島高検検事長が定年退官。

○5月1日に、大谷晃大・仙台高検検事長が定年退官。

○6月17日に、井上宏福岡高検検事長が定年退官。

○7月30日に、林真琴・名古屋高検検事長が定年退官。

ということになり、後任を予想すると、

○中川清明公安調査庁長官。

○中原亮一・横浜地検検事正。

○大場亮太郎・法務総合研究所長。

○落合義和・最高検刑事部長。

○曽木徹也・東京地検検事正。

などから3人が昇格し、東京と大阪以外の検事長に就任する。そして、8月には稲田伸夫・検事総長が、在職期間(18年7月25日付け就任)が2年を超えたということで退任し、首相官邸の目論み通り、8月7日に黒川が検事総長に就任するということになる。

そこまで言えるのは、これまで検事総長の人事は政権や与党などから口出しされないように、3〜4代まで候補者を絞り込み、候補者は法務省刑事局長や事務次官、東京や大阪以外の高検検事長、東京高検検事長などを歴任。そして、検事総長は約2年が任期とされ、現職が自分の退任時期と後任の検事総長を最終的に決めるのが慣例であるからだ。

次は、次期・黒川検事総長以後の検事総長候補者を挙げる。

○36期=甲斐行夫(昭和34年9月生)・高松高検検事長

○38期=辻裕教(昭和36年10月生)・法務省事務次官

○41期=川原隆司(昭和39年8月生)・法務省刑事局長。

○43期=伊藤栄二(昭和41年10月生)・法務省官房長。

○44期=森本宏(昭和42年8月生)・東京地検特捜部長。

ということになるが、この中には過去に検事総長に就任していない慶応大学や名古屋大学の出身者が存在するので、多少の見込み違いもあるかもしれない。だが、現時点でそれくらいはピックアップできる。

しかしながら、法務・検察の人事は、これで良いのかと思う面もある。要するに、検事任官以後30年の貢献度を、全くとは言わないが考慮されず、司法試験の年次で人事を決定しているからだ。吾輩もトシを重ねてきて、人間には「大器晩成型」がいることを知り、そしてそのような人間こそ、魅力ある人物が多いと思うからだ。そういう意味で、あまりにも22歳前後の成績を重要視していることに対して、多少の疑問を感じているのだ。

ということで、吾輩の最も親しい友人に、法務・検察及び検事総長の人事システムを尋ねたところ、次のようなメールが送付されてきた。

韓国の状況を見ると、検察は意図して政権を倒すような捜査・起訴をしている感じを受ける。逆に言えば、政権は検察幹部の人事権を使ってこれに対抗している。韓国みたいな歪んだ国情の司法制度を引き合いに出すのは適当でないが、政権と検察の関係はことほど微妙で距離感が難しい。

日本では、基本的に検察も行政機関の一つで、同じく権力のある裁判所、公正取引委員会などと同様に内閣の監視下にある。その人事権は、内閣に帰属する。

そうした中で、日本の法務・検察の人事は、どうあるべきかを考えると、必然的に検事総長はどういう人物を充てるかは、同じことでなければならない。検察が若干の独自性を持つのは、その起訴権限による。政治家を起訴するかの決定は、検察首脳陣が決める。法務大臣は、個別事件について、検察を指揮する権限がないことは、特に明定されている。勿論、強大な起訴独占主義については批判もあり、検察審査会が設けられている。

これまで検察内部が検事総長を決定し、検事総長になるまでの人事配置の道筋を作ってきたが、それはあくまで事実上でしかない。内閣が人事に介入するとして、それを跳ね返すことはできない。なぜなら、官史の任命は内閣にあり、それは国民主権の下で選ばれた国会が内閣総理大臣を指名するからだ。これが民主主義の自明の論理だ。内閣が都合の良い人事を強行すれば、政府批判が起こり、次の選挙で内閣の構成が代わり、人事が正されるかもしれない。そういう仕組みだ。

検事総長は、検察が自立して決めるにしろ、内閣が主導するにしろ、それに相応しい人物が選ばれるべきだ。そうでなければ、国民に恥ずかしいではないか。司法試験現役もしくは1浪合格、また東大中心の旧帝大卒などに限定するのは旧弊としか言えない。また、法匪という言葉があるが、法匪はいらない。人間が必要なのだ。任官時からエリート意識満々、出世しか目にない、良心の痛みを持ち合わせない、こんなのは淘汰される。頭が良さそうはあまり重要ではない。理屈は皆で考えることが出来るからだ。

検事と言えども、赤レンガ派は行政官だ。予算、国会対応、人事などをこなさないとならない。それは幅広い知識を得ることに繋がり、現場検事よりは成長するだろう。海外留学、大使館勤務、国際会議、他省庁への出向の経験はなお視野を広げる。

さて、難しいのは最後の選択、つまり検事総長への道だ。政権との距離感が近い方が有利かもしれないが、それだけを重視するかどうかは“総理大臣の器"の問題だ。つまり、総理の器とも共通することだが、検事総長たる人物は世情を知って、世間の求めていること知って、期待していることが判る人物だ。さらに、多くの部下の信頼を得ていて、意見をもらえて、自分が決めたら組織が自分についてきてくれる人物だ。国の危機に際して沈着・冷静に最善の対応を考えられること、つまり危機管理能力のある人物だ。人格者であること、他人の痛みがわかり、自分の責務の重さが分かる人間であることだ。

どうですか、最後は“総理大臣の器"の問題になったが、同時に検事総長の器の問題にもなった。それを考えると、日本には内閣総理大臣の人材不足が深刻だと感じませんか。(以上、敬称略)