「中露同盟」は成立するのか

購読している情報誌「選択」(11月号)が、11月1日に郵送されてきた。その中には、興味深い記事が掲載されていたが、まずは「『反米連合』が東アジアの脅威にー日本の悪夢『中露同盟』の足音」を紹介する。

ロシアのプーチン大統領は10月3日、南部ソチで開かれた国際会議で、中国との関係について、「前例のない高い水準の信頼と協力が進んでいる。これは、多面的な戦略的パートナーシップが完全である点で同盟関係だ」と述べた。日本のメディアはこの部分を報じなかったが、プーチンが中露関係を「同盟」と形容したのは初めて。深まる中露の連携は、米中貿易戦争や米露対立を経て、遂に「同盟」に突き進むかもしれない。

新中国成立直後の1950年に調印された「中ソ友好同盟相互援助条約」は第1条で、日本を「中ソ共通の敵」と明記したが、中露の同盟は、歴史的、地政学的に日本にとって最大級の脅威となる。既に暗礁に乗り上げた日露の平和条約締結交渉は吹き飛び、中露は尖閣諸島北方領土で共同圧力を強めるだろう。

中露連携の対日軍事圧力も増加することになる。欧米諸国や他のアジア諸国にとっても、その衝撃は計り知れない。

実は、現在の二国間関係を律する「中露善隣友好協力条約」は2年後に期限切れとなるため、中露両国で条約の取り扱いが密かに検討されている。現状では、自動延長が有力ながら、ロシアでは中露同盟論が浮上している。現行条約が「同盟条約」に取り替えられる可能性もあり、条約交渉の行方に要注意だ。

〈軍事協力協定の締結を交渉中〉

中露関係は国交樹立70周年の今年、一段階格上げされた形だ。国境を分けるアムール川に建設中だった鉄道橋と道路橋が年内に完成し、往来が拡大する。東シベリアから中国東北部の大慶を結ぶ天然ガス・パイプライン「シベリアの力」も年末に開通し、来年からロシアによるガス輸出が始まる。中国の石油輸入先では、2018年はロシアがトップで、全体の22%を占めた。中露貿易は18年に初めて1千億ドルを突破し、日露貿易の4倍以上だ。

両国の軍事協力も拡大しており、ロシアは近年、最新鋭防空システムS400や、最新鋭戦闘機スホイ35の供与に踏み切った。従来、ロシアは中国の軍事拡張を警戒し、高性能兵器の供与を避けてきたが、解禁された。今年7月には、中露の爆撃機2機ずつが、日本と韓国が主権を主張する竹島領空の防空識別圏に編隊を組んで侵入。「初の共同巡回飛行訓練」と発表された。9月、ロシア南部で行われた大型軍事演習には、昨年に続いて中国軍1600人と戦闘機など30機が参加し、対米連携を誇示した。現在、両国の国防省は、軍事協力協定の締結を交渉中だ。〜

〈中露蜜月が長期化する現状〉

〜「中露同盟」には歴史的な禍恨がある。スターリン毛沢東が1950年に結んだ期間30年の中ソ条約は、冷戦下で米国を敵視した軍事同盟条約だったが、同盟は長続きせず、60年代にイデオロギー対立や国家間対立が拡大し、69年には国境武力衝突が起きた。中ソ対立激化の中で、中国は79年、同盟条約の破棄をソ連に通告、有名無実となっていた同条約は1年後に失効した。

中ソの正常化は89年のゴルバチョフソ連共産党書記長の訪中で実現するが、ゴルバチョフ訪中は中国の民主化運動を高揚させ、天安門事件につながる。ソ連崩壊後、中露は徐々に関係を緊密化させ、2001年、プーチン江沢民国家主席は期限20年の友好協力条約に調印した。同条約は、「戦略的パートナー関係」を規定し、核先制攻撃の相互放棄、有事に際しての速やかな協議、国境地域の軍備削減、軍事技術協力などを盛り込んでいる。長年、不安定だった両国関係を予想可能で均衡のとれた関係にするのが目的だった。有事協議条項はあるが、軍事提携は規定していない。

条約は、どちらかの側が1年前に廃棄を通告しなければ、5年間自動延長される。中露蜜月が長期化する現状から見て、廃棄はあり得ず、むしろ、同盟または準同盟を規定した新条約に刷新されるとの見方もある。

〈中国が重視するロシアの「利用価値」〉

中露同盟論は、国際的に孤立するロシアの側に希望が強いようだ。〜経済が失速し、社会に閉塞感が漂うロシアは、14年のウクライナ危機後、欧米から厳しい経済制裁を受け、中国の支援や投資に一段と依存している。トランプ大統領誕生後、米露関係はむしろ悪化しており、トランプ政権は国防予算を増額して新型ミサイル開発に着手。ロシアは対抗措置を強いられている。米国の経済規模の8%にすぎないロシアが、軍備拡張に走るのは容易ではなく、中国との同盟によって米側の圧力を緩和させたいようだ。〜

中国にとって、ロシアと同盟を結べば、ロシアが戦うシリア、ウクライナの2つの戦争に自動的に加担することになり、欧米との関係を決定的に悪化させる。中国の最大の貿易相手国は米国、2位が日本で、今後は「一帯一路」を通じて、欧州連合(EU)への輸出増を狙う。生命線である西側との経済関係を犠牲にして、製造業が弱く、購買力に乏しいロシアと同盟を結ぶメリットは少ない。

とはいえ、〜同盟は難しくても、それに近い「準同盟」は十分あり得るだろう。

〈対ロシア制裁緩和の議論も〉

日本の専門家の間では、中露の歴史的反目や中央アジアでの勢力圏争い、決定的不均衡などから、中露同盟はあり得ないとする見方が支配的だ。しかし、欧米諸国では、中露の連携が予想以上のテンポで進むことに警戒感が強まっている。〜

一昨年死去した米国の地政学者、ブレジンスキー大統領補佐官は、「米国の安全保障にとって最大の脅威は、イデオロギーではなく、不満によって結びつく中露の大連合だ」と指摘していたが、この警告が現実化しつつある。〜

中露同盟で最も打撃を受けるのは日本であり、安倍首相は来春の習近平の訪日や今後のプーチンとの首脳会談を通じ、中露離間を画策すべきだろう。

以上の記事を紹介したのは、学生時代から“中露関係"に関心を持っていたからだ。当時を思い返すと、1969年3月、アムール川の支流ウスリー川の中洲であるダマンスキー島で、領有権を巡って旧ソ連と中国が軍事衝突を引き起こした。その時、中露の専門家の一部には、イデオロギー対立から起こった軍事衝突という見解があったが、吾輩はその底流には「長年の領土問題」があると考えた。

そこで、国立国会図書館に赴き、1689年のネルチンスク条約、1727年のキャフタ条約、1858年のアイグン条約、1860年の北京条約などの条文を取り上げて、「中ソ対立の歴史的背景」という卒論を仕上げた。つまり、ロシアの東進で獲得した“領土奪取"が、当時の中露の軍事衝突に繋がったと分析したのだ。そこには、我が国もロシアの武力攻撃という威圧から、1875年に「樺太千島交換条約」を締結せざる得なくなり、その後の日露戦争は“樺太回復の戦い"という見方に繋がった。

卒論に戻るが、とは言っても国立国会図書館所蔵の百科事典から、ロシアの東進の実態を取りまとめただけのものだ。それでも、四百字詰め原稿用紙450枚になり、今でもその時の作業はよく覚えている。

ところで、この文章を作成するためにネットで、米国の著名なジャーナリスト・ソールズベリーの著書「中ソ戦争」を調べたところ、この著書は1970年に発売されていた。吾輩は、てっきり「中ソ戦争」を読んで、中露関係に関心を持ったと考えていたが、それ以前に卒論を完成していた。名著であるので、読む機会があれば是非読んでみて下さい。

いずれにしても、中露はユーラシア大陸の大国であるが、近代化が遅れたことで、我々が当然と考える民主主義的な考え方や、人の命を軽視する“人権無視国家"であることは忘れてはならない。つまり、中露が同盟を締結することは、1938年の「独ソ不可侵条約」と同じだと思うのだ。その意味するところは、民主主義国家から毛嫌いされる“全体主義国家"同士が、お互いの矛盾を覆い隠すために手を結ぶことと同じであるからだ。それを考えると、今後の中露関係の動向には無関心ではいられないのだ。