新刊書「トラジャ〜」の朝日新聞の書評

10月14日に、新刊書「トラジャ JR『革マル』30年の呪縛、労組の終焉」(著者・西岡研介)を取り上げたが、本日の朝日新聞には“書評"が掲載された。書評者はライターの武田砂鉄氏で、短文の中に要点が“ギューッと"押し込まれているので紹介する。

〈うごめく欲吸い上げた執念の取材〉

「積極攻撃型組織防衛論。国際紛争の話ではない。JR東日本労組の執行委員長に就き、革マル派の「ナンバー2」といわれた松崎明が編み出した、「組織内部の『敵』を見い出し、その『内部の敵』を徹底的に叩くことによって組織を強化し、外部の攻撃から組織を守る」ための理論である。

公安当局が「影響力を行使し得る立場に革マル派活動家が相当浸透している」とするほどにJR東日本の内部で長らく続いてきた「JR革マル」対「党革マル」の内ゲバ。松崎の死を転機に組合の弱体化を画策した会社は、2018年初頭からわずか1年ほどの間に3万5000人もの大量脱退という“成果"を得る。

その判断には「官邸の意向」も働いたと記されているが、大量離脱が始まってからすぐ、ある駅では停車中の車両の車両止めが外され、ある列車からは発車ベルが奪われた。同時期に発生した不審事象は、50件近い。「JR東労組(組合員)二アラザレバ(JR東日本)社員二アラズ」、漂白されていく組織の中で、悪しき風土を保持しようとする者とは一体誰なのか。

同テーマに迫った前著『マングローブ』から12年、乗客の安全さえ脅しに用い、事故を誘発するようにしかけ、幹部を拉致するなどの戦闘的な労働運動は、なぜ息を絶やしたのか。崩壊に至るまでの組織の軋みを、舐めずるような取材で明らかにする。

同時に追いかけるのが、JR北海道で起きた、社長経験者2名、そして組合員の相次ぐ死。その前後に発生した脱線事故やデータ改ざん。「『結婚式』を妨害する方法」「アルコール検査をボイコット」…こうして、いくつか見出しを拾うだけでも事の異様性が伝わるだろう。「東日本」では消えつつある異様な労使関係が、「北海道」には残存していた。

JRのみならず、組合の組織率は減る一方。異様な企業体質を告発するならば、労使間で交渉するよりも、SNSで燃やすほうが手っ取り早い時代なのだ。この終焉は、果たして、企業体質の是正と言い切れるのかどうか。恫喝、威嚇、偽証、あらゆる種類の攪乱が絡み合い、分断が分断を呼び、その度に問われる忠誠心。

車内で、あるいは構内で、乗客を数分さえ待たせてはいけないと勤勉に働き続ける彼らの背景を知る。革マル系労組がなぜ30年もの間、最大組合でいられたのか。「人殺しの組合」とまで称された集合体が解体された後、そこに何が残るのか。

600ページを超える大著を読みふけった後に、これは闘争の“終着駅"なのか、疑い始める自分がいる。うごめく欲を吸い上げた、著者の執着心に圧倒される。

吾輩は、主にJR北海道における経営側と革マル派との“労使癒着"を焦点に書いた。一方、紹介した書評は、JR労組の中で最大の東日本労組に浸透した革マルの活動実態を焦点に記している。その違いはあるが、さすがに大手新聞の書評である。いずれにしても、今後もJR東日本労組とJR北海道労組の動向には目が離せない。