JR北海道の詳細な経営実態

JR北海道は、年40億円規模の増収を見込んで、10月1日から運賃値上げを実施するが、国民の多くは詳細な経営実態を知らない。だからこそ、吾輩は4月11日に題名「JR北海道は毎年280億円の支援が必要」という文章を作成した。だが、経営実態がよく理解できる記事が、月刊誌「鉄道ジャーナル」(9月号)に掲載されていた。寄稿者は、鉄道ジャーナリスト・佐藤信之氏で、題名は「JR北海道経営の現状と支援」である。

なお、佐藤氏は一昨年10月に「JR北海道の危機ー日本からローカル線が消える日」という著書を上梓している。

〈平成30年度決算〉

JR北海道の平成30年度の連結営業収益は、前期に比べて27億円減の1710億円であった。過去最も収益が多かったのは、平成25年度の1895億円である。昭和62年度、JR北海道の最初の決算では920億円であったので、ほぼ倍にまで増加したことになる。ただし、昭和62年度の数値はJR北海道の単体の営業収益である。もともと国鉄が出資を制限されていたため、JR北海道が引き継いだ子会社・関連会社はごくわずかであったので、現状の連結決算と比較するのに不都合はない。

平成30年度の営業利益は、前期に比べて2億円悪化の418億円の赤字であった。経営安定基金の運用益247億円、特別債券受取利息55億円および経営安定基金の運用で取得した外貨建て債券などの評価益の一部30億円を取り崩して、307億円の営業外利益を計上したが、結局連結経常利益は前期より5億円悪化した111億の赤字となった。札沼線北海道医療大学新十津川間の廃止に伴う経費30億円を特別損失に計上するなどで、最終損益は179億円の大幅赤字と、前期に比べて赤字額が92億円増加する結果となる。〜

連結決算対象会社の中で売上高の大きい会社は、北海道JR商事260億円、札幌駅総合開発216億円、北海道JRフレッシュネス・リテール176億円、北海道キヨスク172億円、北海道軌道施設工業92億円、JR北海道バス82億円、札幌交通機械70億円など。札幌駅のJRタワーなどを経営する札幌駅総合開発と、街ナカでJR生鮮市場を経営する北海道JRフレッシュネス・リテール、北海道キヨスク以外はJR北海道から分社化したり、JR北海道の業務を受託している会社ある。稼ぎ頭は、JR北海道の物品購入などを担当する総合商社の北海道JR商事である。

平成30年度の売上高は、連結1710億円に対して単体は885億円で、単体の比率は51.7%である。

経常利益は、単体の赤字が198億円であるのに対して連結は111億円の赤字で、グループ企業の利益により87億円赤字が減ったことになる。最終損益では、単体213億円の赤字に対して連結では179億円と、グループ企業の貢献度合いは34億円にとどまる。

売上高、経常利益ともにグループ企業の比率が高いものの、札幌駅総合開発が24億円の最終利益を計上するほかはいずれも利益率が低い。JR九州が高収益のグループ企業を育てたのと対象的である。

吾輩も、それなりに経営実態の把握に務めてきたが、これほど詳細に経営実態を解説した記事は知らない。その背景を著者は、これまでJR各社は情報公開には消極的で、特に上場していないJR北海道の場合は、現在でも「有価証券報告書」には遠く及ばない公開内容という。

ということで、JR北海道の売上高の半分近くは子会社が占めていることは把握していたが、どのような子会社があるのか、ということは知らなかった。ところが、この記事で7社の子会社と売上高がわかった。

そのほか、JR北海道には、まだまだ解明されていない問題がある。それは労組の問題である。最近評判の書物「暴君ー新左翼松崎明に支配されたJR秘史」(著者=牧久)には、次のようにJR北海道の労組の実態を記している。

現役社長が自殺ーJR北海道問題

JRのなかには今でも「革マル派が支配する」といわれる組合と「労使共同宣言」を結び、宥和路線を歩んでいる会社がある。民営化以来、最大の経営危機に陥っているJR北海道である。同社ではJR総連傘下のJR北海道労組(北鉄労・組合員5500人)が組織率9割以上を占め、JR北労組(組合員440人)、国労北海道(同50人)などを寄せ付けない圧倒的な組織力を維持している。

北鉄労は20年以上も前から、JR連合傘下のJR北労組との「平和共存否定」の方針を掲げ、組合員に対して他労組の組合員との交流をいっさい禁じ、他労組の組合員に仕事も教えず、職場での挨拶も交わさない。

この北鉄労を長年、取り仕切ってきたのが、“北鉄労のドン"と呼ばれる元委員長の佐々木信正である。佐々木は、1999年(平成11年)から10年間にわたって同労組委員長を務め、この間、JR総連副委員長のポストにも就いた。佐々木は松崎の“腹心"であり、松崎がJR東日本で築き上げた労使関係を、北海道で忠実に再現したといってもいいだろう。今でも同労組顧問としてJR北海道の労使関係に大きな影響力を発揮している。

要するに、JR北海道の最大労組は、いまだに革マル派の影響下にあるというのだ。つまり、2018年2月中旬すぎからJR総連・東労組(革マル派の組合員で組織する指導部「マングローブ」のメンバーが約100人、「フラクション」と呼ばれる革マル派シンパが約800人いる)からの脱退者が激増し、約4万7000人(2月1日現在)だった組合員数は、10月末には1万2500人まで落ち込み、この間の脱退者数は実に3万4500人に上回っている。

JR北海道の最大労組のことを取り上げたのは、この労組問題が解決しなければ、安定的な経営は考えられない。なぜなら、JR北海道は、今後も国や沿線自治体の支援を受け、さらに国民の理解も得なければならないからだ。援助や支援を受けなければ経営できない会社が、今後も「革マル派排除」を実現できないということは許されないのだ。