「西洋の自死」の書評が読売新聞などに掲載された

昨日、新刊書「西洋の自死」の書評を書いたところ、本日の読売新聞にも書評が掲載された。さすがに大手新聞が掲載した書評は、読めば読むほど、ポイントを要領よく短文で書いている。そこで、この書評を全文紹介することにした。

ー評・鈴木幸一(インターネットイニシアティブ会長CEO)ー

英国で人気のある新生児の名前は「モハメッド」なのだという。欧州では激増する移民、出生率の違いにより、人口構成の逆転が起きている。英国の男性の大半が「モハメッド」になっても、「英国的」であり続けらるだろうか。

第2次大戦後、労働力が不足する欧州の高度経済成長を支えたのは、トルコなどからの労働移民だった。そして2015年、シリア内戦を契機に、膨大な数のイスラムの教えに従う難民が地中海をボートで渡り、欧州に押し寄せたとき、ドイツのメルケル首相は、「欧州は一体となって行動し、また各国が保護を求める難民への責任を分かち合わなければなりません」と、率先して受け入れる姿勢を示した。これはメディアに称賛されたが、大量の移民が、EU域内で移動を始めた結果、社会に大きな混乱をもたらしたことはよく知られている。

多文化共生とは聞こえがいいが、著者は否定的な立場だ。欧州各地における人権の文化、とくに女性の権利というものは、必ずしも「我々の社会にやって来る人々」が共有するものではなく、むしろ「古代ギリシャとローマから生まれ出で、キリスト教に影響を与えられ、啓蒙思想の炎によって精錬された欧州社会」が生んだ例外だったと指摘する。

そして政治家やマスコミが移民問題について、「人種差別主義者」と批判されることを恐れて、腰が引けた対応しかとらないことを批判する。本書のタイトルは、こうした状況について著者が「欧州は自死を遂げつつある」と例えたことに由来する。

ローマはゲルマン人の民族移動によって崩壊したのではなく、内部崩壊だったという説を読んだことがある。その説は、そのまま欧州が自己崩壊に陥っている現状に当てはまるのではないか。欧州の歴史、文化に対する見識に裏打ちされた本書は、そんな不安と恐怖を呼び起こさせる。町田敦夫訳。

どうですか、本書の内容を良く理解できましたか?鈴木氏は、本書を噛み砕いて自分の言葉で書いている。一方、我が輩の文章は、著者の文章を生かす形で取りまとめた、という違いがあると思います。それにしても、素晴らしい内容である。

ということで、これで文章を終わりにしようした時、友人から「今日の東京新聞にも、書評が掲載されている」という連絡があった。そこで、その記事をFAXで送ってもらった。

ー(栗原裕一郎・評論家)

欧州はいま移民・難民問題で混迷と分断に晒されている。「西洋の自死」は、保守派ジャーナリストの視線で、欧州が陥った価値観や宗教観にまで及ぶ危機を分析した書だ。哲学や現代思想も踏み込んだ議論は重厚だが、極論の気味がないではない。

中野剛志が解説で、本書を「日本の自死」と読み替えよと警告している。その煽りを真に受けるかはともかくとして、移民との共棲が眼前となってきた今、目を通しておきたい本ではある。ー

そういうわけで、また参考になる書評があれば紹介したいと思う。