国有林の一部は環境省に移管すべき

我が輩は、以前から北海道の広大な国有林を、林野庁はどのような形で管理していくのかと思っていた。なぜなら、父親の職場だった林野庁北見営林局の営林署は、赤字を減らすために職員を大幅に削減し、営林署もほとんどなくなったからだ。だから昔、ドイツを始め欧米諸国の森林管理のリポートを読んだ時、日本も伐採よりも自然保護を主眼に置いた環境省が管理する森林が多くなるのか、と漠然と考えていた。

そんな中、昨日の「朝日新聞」朝刊に、現在の森林管理に対して、問題提起する寄稿が掲載された。その寄稿者は、東京大学院の田中俊徳准教授で、題名は「国立公園内の国有林ー人も予算も環境省移管を」である。さっそく、その投稿の一部を紹介する。

政府がまとめた「明日の日本を支える観光ビジョン」は、国立公園の一部を整備し、2020年までに外国人の利用者を年間1千万人にすることを目標にしている。そのために避けて通れないのが、国立公園の二重行政をめぐる問題である。

国立公園を管理する環境省は、公園面積の約0・4%しか所有しておらず、全面積の約60%は林野庁の所管する国有林だ。管理者(環境省)と地権者(林野庁)が異なり、政策矛盾や非効果が随所に生じている。

〜さらに深刻なのは、国立公園を管理する職員(レンジャー)の少なさだ。私の調査では、日本の国立公園には平均3人しか職員がいない。アクティブレンジャーと呼ばれる非正規職員を含めても、一つの国立公園に平均6人しか職員がおらず、現場は疲弊している。例えば、イギリスの国立公園では1カ所につき60〜230人、韓国も50〜160人の職員が管理にあたる。アメリカなどは比較すべくもないが、ヨセミテ国立公園だけで800人の職員がいる。

イギリスをはじめ海外では、国立公園を軸とした地方創生が盛んだ。国立公園が、自然保護と地域の持続的発展を進めるエンジンとなるためには、公園内の国有林を人と予算ごと環境省に移管すべきだ。「国立公園のことについては、管理者が責任をもって判断する」という当たり前のことが出来るようになれば、林野庁との膨大に調整作業も解消され、より魅力的な公園となるだろう。

以上の文章を読んで、“未だにこんな状況なのか"とがっかりすると共に、林野庁環境省は“何の利権"で争っているのか、とも思った。そして、同日の「読売新聞」夕刊が、「野生動物観光ツアーー国立公園 知床・オオワシ 釧路・タンチョウ」との見出しで、次のような記事を一面で掲載した。

環境省は2019年度、観光業者らと連携して野生動物の観察ツアーを実施するなど、国立公園への外国人観光客の誘致を強化する。同省はこれまで自然保護に主眼を置いてきたが、今後は観光にも力を入れる方針だ。今月導入された国際観光旅客税(出国税)の約50億円を活用する。

国立公園を訪れる外国人数は年々増加している。同省は新たな呼び込み策で、外国人観光客数2015年の約490万人から、20年までに1000万人へ倍増させることを目指す。ー

ということで、朝日と読売が同日に、国立公園による外国人観光客の誘致に関する報道を行った。それだけに、非常に重要な報道であるし、特に国立公園の多く抱えている北海道では、無視出来ない報道である。それだけに、問題があるならば、早急に解決しなければならないが、と同時に、果たして林野庁がその期待に応えられる官庁であるのか、とも思った。

我が輩は、2014年10月11日に「『緑のオーナー制度』裁判で考えたこと」という文章を作成した。この文章で明らかにしたことは、誤解を恐れずに言えば、林野庁は人材も、先見性も、企画力もない官庁であるということだ。そもそも、「緑のオーナー制度」(1口50万円)は、昭和59年に林野庁が始めたもので、多くの森林資源を守りたいという善人から出資金を集めた事業だ。ところが、募集を中止した平成11年までに、8万6千人から500億円という資金を集めながら、そのほとんどが大幅な損失に至った。こんな人材不足の官庁に、幅広く内外の観光客を呼び寄せる企画力があるハズがない。その意味で、それなりの人材がいると思われる環境省に、国有林の一部を管理させて、地方を活性化させることには大賛成だ。

我が輩も、以前から国有林から“価値を生む方法"を我が輩なりに考えてきたが、一連の報道を読むと、やはり“観光"に行き着くようだ。もしも、計画通りに外国人観光客が押し寄せれば、地域経済に及ぼすメリットのほかに、環境省の職員が国立公園で1カ所に百人、二百人居住することになれば、なおさら波及効果は絶大にものになる。特に、人口減少がはなはだしい地方にとっては、絶対に獲得したい人口維持装置だ。それを考えたら、今から該当する市町村は、誘致活動に努力した方が良さそうだ。可能性のあるフロンティア事業を書くことは、非常に楽しいものだ。