北海道で摘発された“ナマコ密漁" の背景

謹賀新年。本年もよろしくお願いします。

さて、本年最初のテーマは、北海道で摘発された“ナマコ密漁"の背景である。

毎晩、ネットで北海道新聞を読んでいると、やたらに昨年後半から“ナマコ密漁"で逮捕される男たちが多いのだ。そこで、どこで摘発されたのかを調べたところ、

オホーツク管内雄武町沖でナマコを密漁したとして、最終的には男ら17人が逮捕される。

稚内市内の海岸で6月、ナマコ約400キロの密漁が摘発され、男たち18人が逮捕される。

石狩市の海岸でナマコ約450キロを密漁したとして、暴力団組員らが逮捕される。

ということであった。つまり、北海道では昨年、これだけ大掛かりな“ナマコ密漁"が摘発されていた。その後は、何故にこんなに“ナマコ密漁"が多く、そして暴力団が関わっているのか、という疑問が沸き起こった。そんな時、「北海道新聞」(12月9日付け)に、新刊書「サカナとヤクザー暴力団の巨大資金源『密漁ビジネス』を追う」(著者=鈴木智彦、小学館)という本の書評が掲載された。

さっそく、同書を読了したところ、「今も昔も密漁はヤクザのシノギ(資金源)だ」という説明と共に、ナマコ密漁の実態が書かれていた。

○密漁団は、暗闘に乗じてゴムボートで漕ぎ出し、酸素ボンベを背負って漆黒の海にダイビングする。海岸の漁師や警察、海上保安庁に見つからないよう、ライトは一切使わない。海の中に潜って初めて、頭にかぶった料理用のプラスチックザルに、結束バンドで縛り付けた防水ライトのスイッチを入れる。狙うのは黒いダイヤモンドと呼ばれるナマコだ。

○装備はざっと以下の通りである。アキレス製の10人乗りボートには、通常、3人から4人の潜手・ダイバーを乗せる。搭載する船外機は2サイクルの25馬力と、4サイクル35馬力の2台が多い。通常は4サイクルを使うが、予備が2サイクルなのは、構造が簡単で万が一の時でも洋上修理が出来るからという。その上、ヘッド回りが小さく、取り扱いにも優れている。船外機が故障したゴムボートでは、逃げ切れないからだ。

○潜手は12リットルのボンベを2つ背負い、1時間半×2回、もしくは3回を使い切るまで海に潜る。体に結わえた網の中に、手づかみしたナマコをどんどん入れていく。小さめのボンベをダブルで背負うこともあるし、酸素を使い切る前にナマコを穫り終えてしまうこともある。1回潜ると基本的には漁が終わるまで浮上しない。ナマコの密漁団が増えすぎたため資源が枯渇し、かなり深くまで潜るため、簡単に上がってこられないのだ。

○陸には、陸周りと呼ばれる地上班が3人程度おり、車に乗って定期的に周辺を偵察している。仕事は夕方から始まり、午後10時、11時までかかるので、パトロールの時間以外は山の中や、こうした駐車スペースなどで待機する。密漁が洋上で捕まることはない。取り締まる側は、ボートから海産物を降ろすわずかの時間を狙ってくるので、ブツを満載してきたボートの撤収時が一番危険だ。陸周りの役目は案外重要なのだ。

○日本では刻んで酢醤油で和え酒のあてにしたり、その腸である海鼠腸を珍味として食べる程度のナマコだが、山東料理広東料理ではおめでたい場に欠かせないハレの日の食材である。中国においてナマコは高級食材である。20世紀後半から、中国人は世界中のナマコを買い漁った。

○『乾なまこの価格形成の仕組みと貿易問題』(熊谷伝)によれば、平成17年、乾燥ナマコの世界的な集積地である香港で、北海道産はキロ8万2500〜8万5000円で取引されていたという。オーストラリア産(7500〜1万円)、インドネシア産(5000〜1万円)、アフリカ産(1万5000〜3万円)、中南米産(5000〜1万2500円)と比べても図抜けて高いことが分かる。

○正規のナマコは、それぞれの漁協でセリにかけられる。平成12年、キロ657円だった北海道のナマコ価格は、14年には720円、16年には1479円、18年には2497円と右肩上がりとなった。25年には4000円を超え、30年の5月の最高価格は6000円を突破した。

○漁協の資料などによれば、ナマコの漁獲量は、全国で八千トンあまりで、北海道のナマコ漁獲量は二千トン〜三千トンあまり。ナマコを狙う密漁チームは現在、道警の認定で70近くあり、1チームは1日で最大五百キロ〜1トンのナマコを密漁する。夏と冬のシーズンを中心にそれぞれ50日稼働したとして25トン〜50トン。それが70チームだから、おそらく正規の漁獲量と同等程度はあるだろう。

以上、ナマコ密漁の実態を紹介したが、その一方で、死亡事故も頻発しているという。昨年の4月7日未明、稚内でダイビングしていた30代の男性が行方不明。7月7日にも雄武町の漁港でダイビングしていた40代の男性が行方不明。また、それ以前にも留萌で密漁団のダイバーが行方不明になっている。要するに、黒いダイヤと呼ばれるナマコを狙う密漁団たちは、深夜、素潜りの限界ラインである水深40メートルまで潜り、毎年、数人が行方不明となり遺体すら見つからない。

このほか、新刊書で参考になったのは、地方都市の暴力団組員の実態だ。

ー昔から兼業ヤクザともいうべき人種はけっこういる。タクシー運転手をしながら、居酒屋で働きながらヤクザをやるというケースは思いの外多い。その代表格が土建屋ヤクザだ。マスコミや警察は、暴力団が土建業に進出しているととらえているが、それは実情に即していない。

彼らは土建業が正業で、ヤクザはあくまで副次的だ。ヤクザが土建屋になったのではなく、土建屋がヤクザもしていると表現するのが正しい。それぞれ仕事を持っている個人事業主の互助会、それがヤクザであり暴力団の姿である。

ヤクザ組織の基礎を支えているのは兼業ヤクザ、つまり正業を持つ人間たちなのだ。ー

ということであるが、暴力団組員は、1992年の暴力団対策法が施行された当時は約9万600人で、その後は年々減り続けて、一昨年末の時点で約3万4500人となっている。それでも、まだ3万人あまりの勢力がある以上、今後も漁業、農業、金融、建設など普通の会社を背後から操る形で資金を得ることが予想できる。その意味で、当局(警察、海保、厚生など)の監視体制は緩めてはならないのだ。