安倍首相、日露平和条約締結を急いでいませんか

今月14日に、シンガポールで行われた日露首脳会談で、安倍首相とロシアのプーチン大統領は、1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約締結交渉を加速させることで合意した。このニュースを聞いた瞬間、怒りの文章を作成することを考えたが、ロシア専門家の北海道大学名誉教授・木村汎の寄稿を読んでからにしようと考えた。そして昨日、遂に木村教授の寄稿が「産経新聞」に掲載されたので、その一部を紹介したい。

プーチン氏は法を恣意的に操るー

レニングラード(現サンクトペテルブルグ)国立大学法学部出身」。ロシアのプーチン大統領はこの己の経歴を誇りに思い、しばしば自慢げに言及さえしている。しかしながら、氏は果たして法とは何かを正しく理解している法曹家といえるのだろか。〜

〈批准されていないものは無価値〉

〜ではプーチン大統領が重視するのは何か。単に指導者が調印するばかりでなく、それぞれの国へ持ち帰り最高議決機関で批准手続きを受けた文書だけということになる。同大統領はこのような国際法の理解から、日露間では1956年の「日ソ共同宣言」のみを両国間を律する最高の文書と見なす。

それに比べて93年の「東京宣言」、2001年の「イルクーツク声明」、その他の日露首脳間合意をただそれらが批准されていないという理由で軽視する。

ところがこれは一知半解の見方である。グローバル化の時代の到来に伴い、諸国家間で結ばれる国際的な条約や協定の数は爆発的に増加しつつある。結果として条約締結手続きの簡素化、迅速化の要請が生まれ、もはや批准の有無は重要視されない。これが今日の国際法の常識だ。このことを知らない(知らないふりをする)者を、法学士と認めうるのだろうか。「ニエット(ノー)」である。

スターリンと何ら変わらない〉

〜第二次大戦終結前後に連合国列強は「国境不拡大の原則」に合意した。にもかかわらず、スターリンは自らが調印した「日ソ中立条約」はいうまでもなく、「大西洋憲章」「カイロ宣言」「ポツダム宣言」に違反して、日本領土をソ連邦へ併合した。ブレジネフ・ソ連共産党書記長は自ら1975年調印の「ヘルシンキ宣言」中に「欧州における国境線の現状固定化」を書き込むことを強く主張した。

第二次大戦後の国際秩序を律する右の一連の基本合意を真っ向から踏みにじって省みようとしないのが、スターリンと同じプーチン氏と評さざるをえない。〜

〈己自身の条件で領土を決める〉

プーチン氏は口頭で述べていることと、現実にとっている行動を乖離させて平然としている。同氏が領土問題に関してダブルスタンダードをとっていることは明らかである。というのも、クリミアを自国に併合した2014年3月18日の演説中で、プーチン氏はクリミア半島がもともとロシアの「固有の領土」であるがゆえにロシアが併合して当然と名言したからである。いわく「クリミアは常にロシアの分かちがたい一部であったし、今日もそうである。固有のロシア領土に他ならない」。

しかしながら、プーチン氏がクリミアをロシア「固有の」領土であると主張するのならば、それ以上に確かな根拠に基づいて北方四島を日本「固有の領土」と説く日本政府の主張を、同氏を承認せねばならないはずだろう。ところが、プーチン氏は前者を主張する一方、後者すなわち日本の主張に全く同意する気配を示さない。

以上述べたことから、2つの結論が導き出されるだろう。まず、ロシア人一般に法律尊重の意欲が希薄である。ロシアの諺もいわく、「法は、梶棒と同じである。向けた方に向く」。次に、ロシア人が物事を国際的なスタンダードでなく、あくまで己自身の条件で決めようとしがちであること。プーチン氏は典型的なロシア人であると主張しえても、決して法律を学んだ人物とは言いえない。日露間での領土交渉に当たり、安倍晋三首相が銘記すべき要締である。

さすがに、以前から敬服する木村教授の寄稿である。また、当人は一昨日発売の週刊誌「週刊新潮」で、「14日は大ショックで夜も眠れないくらいでした」と憤っていた。我が輩も、この記事を読んで、勇気を出して書くことにした次第である。

そもそも、北方領土旧ソ連邦による“火事場泥棒"で奪われた領土である。ということは、北朝鮮に拉致された被害者と同じで、まさに国際法でも人道上でも許されない犯罪行為で起きた出来事である。その点を考えると、まずは犯罪者から奪われた物を取り返すことから始めなければならない。ところが、ロシアも北朝鮮も、盗人猛々しいというか、逆に被害者が盗っ人に対して「これだけでも返して下さい」という交渉をしており、これではどちらが犯罪者で、どちらが被害者であるのかがわからない状況にある。ここは毅然として、犯罪者から盗んだものを取り返すことが最も重要な交渉態度と考える。

現在、ロシアは欧州ではNATO(北大西洋条約機構)と厳しく対立し、特にウクライナ東部では既に4年にわたり、政府軍と親ロシア派武装勢力との対立が続いている。その意味では、ロシアこそ日露平和条約の締結を望んでいるのであって、何もこんな国際情勢の中で、卑屈な態度でロシアと交渉するべきではない。これでは、日本がロシアの侵略行為に協力しているように見えるではないか。

最後は、安倍首相に対して厳しいことを書く。以前にも書いたが、安倍首相は宰相としての“歴史観"を持っているのか。一部週刊誌が、ロシア専門家の言として、「歴史に名を残すために、平和条約締結を急いでいる」「自分自身の実績にしたいからではないか」と書かれているが本当か。本人は「本当だ」とは答えるハズはないが…。多くの国民は、プーチンが安倍首相の足下を見て、小馬鹿にしたような対応していることに我慢がならないのだ。例えば、プーチンは常に会談にわざわざ遅刻をして出てくるが、安倍首相はいっもニコニコと含み笑いを示して会談に望んでいる。つまり、もうプーチンにすり寄っていく外交は終了した方が良いと思うのだ。領土問題は、長期間かかる外交問題で、これを動かすためには、それなりのフォローの風が吹かないと、大きく動かすことは出来ない。安倍首相!今はそんな時代ですか?