米国映画「レッド・スパロー」の現実性と批評

一昨日、東京・日比谷の映画館で、米国映画「レッド・スパロー」(主演=ジェニファー・ローレンス)を観た。スパローとは、スズメという意味で、つまりは「赤いスズメ」という題名になる。映画の内容は、ロシアの情報機関の常套手段である、若い女性の肉体を利用する“ハニートラップ"を巡って、米ロ両情報機関の謀略を描いた作品である。

しかしながら、ロシアの情報機関の実態を多少は知っている者にとって、とてもでないが映画の世界だけの話しには思えなかった。映画や小説は、空想の世界をエンターテイメントに描くが、この映画には現実性がある。

映画鑑賞後、映画パンフレットを購入(780円)したが、そこには「この映画の原作は、33年にわたってCIA(米中央情報局)に勤めたジェイソン・マシューズが、2013年に出版してベストセラーとなった」と記載されていた。それで、この映画の真実性に納得したし、恐ろしさも感じた。ついでに紹介すると、この原作は、翌14年に「レッド・スパロー」(ハヤカワ文庫)として日本で出版されている。

映画パンフレットに戻ると、次のような文章もある。

ー“ハニートラップ"スクールは、事実、旧ソ連のスパイ養成項目の一部になっていた。「旧ソ連では、ターゲットの捜査官をゆするため、若い女性に人を罠にかける方法や、誘惑方法を教えていた」とマシューズは語る。「ヴォルガ川の岸辺、カザン市にスパイ養成学校があった。そこでは若い女性に高級娼婦になる方法を教えていた。彼女たちは“スパロー"と呼ばれていたんだ。ー

要するに、ハニートラップという工作手法は、昔から世界各国の情報機関が使用しているが、特にロシアが重要視している。その背景には、今のロシアの政治、経済、文化、スポーツなどを見ると、非近代化で羨む体制・国家ではない。これでは、誰も積極的にロシアに協力する者が現れず、そこで強引とも言える手法“ハニートラップ"で、スパイ獲得を目指しているのだ。

ところがである、この映画を批評する記事が「ニューズウィーク(日本語版)」(2018年4月10日)に掲載されている。見出しは「J・ローレンスの好演でも『拷問ポルノ』は救えずー話題作 美貌を武器にしたロシアの女性スパイを描く『レッド・スパロー』は女性の裸と暴力が多すぎる」というものである。著者の名前を見ると、「エミリー・ガウデット」というのだから女性であろう。確かに女性から見れば、一糸まとわぬ場面があるのだから、そう観られても不思議ではない。しかし、現実性と娯楽性を考えると、多少ヌードなどの刺激性があった方が、説得力と集客力に貢献する映画になると考えないのか。

もう少し、彼女の批評を紹介したい。

○元米CIA工作員ジェイソン・マシューズの小説を原作とする『レッド・スパロー』は、言ってみれば第一級のB級映画だ。

○ローレンスの好演によっても、この映画が「拷問ポルノ」であることに変わりはない。

○映画が始まって1時間後にドミニカ(主演)が金属パイプで殴られると、観客の不快感は膨れ上がる。

○女性が逆境に打ち勝つストーリーは必要だが、そこに嗜虐趣味を持ち込む必要は全くない。

という訳で、一部女性の視点から観ると、これだけ厳しい批評になる。各人の価値観や人生経験が違うと、これだけ違う見方になることを示している。ここは皆さん、久しぶりに米国映画を観て、どちらの批評に賛同するかを検討してみたら如何ですか。それにしても、最後のどんでん返し、そして結末には驚いた。