法務・検察の厳格な人事異動と異常な人事異動

久しぶりに、今月9日発売の月刊誌「文芸春秋」(4月号)を購入した。その理由は、ジャーナリスト・村山治(以下、人名は敬称略で失礼します)による「検察激震『官邸介入人事』の全貌ープリンスの事務次官就任は三度覆された」という記事が掲載されていたからだ。

実は、書店で上記記事と著者の名前を見た瞬間、昔読んだ本のことを思い出した。村山は、元朝日新聞記者で、検察庁の深層に迫る多数の著書を出版し、検察庁内部の把握には敬服していたからだ。その人物が、久しぶりに検察庁の内部問題を書いているので、当然のことに購入した。

記事の内容は、次の次の検事総長候補に、法務・検察首脳陣は今年1月当時の刑事局長・林真琴(現、名古屋高検検事長)を後継指名したが、官邸側が司法修習35期の同期である法務事務次官・黒川弘務を推しているので、法務・検察首脳陣が困惑しているという。つまり、検察総長は、法務・検察の要職を歩み、官房長、刑事局長、事務次官を経て就くケースがほとんどであるからだ。だが、このお話のポイントは、下記の事柄であるので、その部分を引用する。

黒川を検事総長候補にしなかった最大の理由は、黒川を次の次の検事総長候補にすると、16年0月に就任した現検事総長の西川、次の検事総長候補の稲田の検事総長在任期間の調整が難しいことにあった。

検事総長の定年は65歳。検事長以下は63歳だ。そのため、検事総長のポストは2年おきに交代していくのが、組織にとって最もスムーズなのだ。70年代半ばからの歴代検事総長の任期は、不祥事絡みでイレギュラーになった時以外だいたい2年か2年数ヵ月となっている。

西川は1954年2月生まれ。稲田は56年8月生まれ。黒川は稲田とはわずか半年違いの57年2月8日生まれ。黒川を検事総長にするには、黒川が63歳の誕生日を迎える2020年2月8日までに稲田が検事総長を辞めなければならない。今夏には西川が勇退し、後任には稲田が就く予定だ。黒川検事総長なら、稲田の任期は最長でも1年半となる。対して林は57年7月30日生まれ。稲田とは誕生日が約1年違う。稲田は2年間検事総長を務めることができる。

仮に、黒川から林へと同期で検事総長の椅子を引き継ぐとなると、黒川は20年7月までに退官しなくてはならず、任期が非常に短くなる。重責を担う検事総長が半年や1年でころころ代わるのは、国民が望むところではない。だから、林しかない、というのが法務・検察の論理なのだ。

要するに、検事も法律で厳格に定められた公務員である以上、どうしても定年という壁がある。つまり、検事総長の人事では、任官時期と年齢が関係してくる以上、黒川の検事総長就任には無理がある。過去の検事総長を見ると、全て司法試験を現役(22歳)か、1年遅れ(23歳)で合格している。その意味で、黒川は2年遅れで任官し、今夏に検事総長に就任予定の稲田(33期)と同学年である。官邸側が、無理押しすることは、黒川本人をその気にさせるし、雑誌などに“面白おかしく"取り上げられてしまう。この責任は、法務大臣にある以上、いまさら法務・検察の人事案をひっくり返すべきではない。

というわけで、我が輩は法務・検察の論理に軍配を上げる。しかしながら、これ以降の文章は、法務・検察の人事を批判する内容である。先ずは、法務・検察首脳は、何を恐れているのか。つまり、同僚であった検事(現役の大阪高検公安部長M)や元検事(元広島高検検事長O)を取り調べた検事が、どうしてとんとん拍子で大出世するのか。例えば、

①O検事(任官8年遅れ)=神戸地検刑事部長、大阪地検総務部長、大阪地検特別捜査部長、京都地検次席検事、大分地検検事正、岡山地検検事正、最高検検事、最高検総務部長、さいたま地検検事正、定年退職(13年3月26日付)。

②I検事(任官2年遅れ)=東京地検公安部長、公安調査庁総務部長、金沢地検検事正、最高検検事、最高検総務部長、東京高検次長検事東京地検検事正、最高検次席検事、大阪高検検事長、定年退官(16年9月1日限り)。

上記検事2人の人事に関しての疑問点を挙げる。先ず第一点は、なぜ故に、急に驚くようなスピードで出世を始めたのか。検察庁関係者や、我が輩のような外部の者も、皆疑問に感じている。

第ニ点は、2人とも定年退職、定年退官している。検事の定年は63歳であるが、ほとんどの検事は60歳前後で退職している。特に、O検事(私大卒)の場合、任官時期が8年遅れであるにも関わらず、最高検総務部長とさいたま地検検事正に昇格し、定年まで在籍している。こんな検事、彼だけだ。

第3点は、I検事であるが、大阪高検検事長まで出世する検事は、若い時からそれなりの「ポスト」「処遇」を受けている。ところが、I検事の場合、そのような待遇を受けていない。元検事を取り調べた後、急に出世を始めた。この事実は、明らかに組織のため汗をかいたことを証明している。

要するに、検察庁の人事が、組織のために汗をかいた職員を引き上げているので、検事が幹部に就任している関連組織は、同じように検事本人のために汗をかく人物、つまり“胡麻擂り"や“ヒラメ"が出世する組織に陥っている。だから、くだらない者が、くだらない者を引き上げることになるのだ。これでは、まさに国家の大損失ではないか。その意味で、検察庁の人事も、誰が見ても納得する人事を実施して欲しいのだ。

さて、がぜん今夏の法務・検察幹部の人事が注目されることになった。だが、今回のゴタゴタ人事の背景には、法務省事務次官刑事局長から就任することが定番だったが、過去に但木敬一(元検事総長)が官邸から絶大な信頼を得て“大官房長"という道筋を作り、そのまま事務次官に就任した歴史がある。その二代目が黒川で、官邸・国会筋からの信頼は絶大であることが、今回の人事を複雑化させている。だが、我が輩の予想では、いずれ林真琴が法務事務次官に就任すると見ている。と同時に、今の法務大臣には、オウム真理教事件で死刑が確定した13人に対する対応がある。特に、主犯・麻原彰晃こと松本智津夫に対しては、いつ死刑執行を命ずるのか、という重責がある。いつまでも、法務・検察の人事案を拒否して、世間の注目を浴びる必要はないと思うのだ。