読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

森金融庁長官の素晴らしい基調講演

前回、金融庁の森信親長官の講演内容を紹介した。その後、ネットで金融庁を見たところ、さらに別の講演内容が掲載されていた。そこで、ある友人に話したところ、「それほど素晴らしい講演内容であれば、紹介するべきだ」とのアドバイスを受け、この講演内容を紹介することにした。

この講演内容は今年4月7日、日本証券アナリスト協会が主催した「第8回国際セミナー」で行った基調講演で、題名は「日本の資産運用業界への期待」(7㌻)である。その講演録は、誰でも読めるので、日本の将来を心配している人は、是非とも読んで欲しい。それでは、その素晴らしい講演内容の一部を紹介する。

私は、ここ数年、金融機関に対し「顧客本位の業務運営」をしてくださいと一貫して申し上げてきました。企業が顧客のニーズに応える良質な商品・サービスを提供し続けることが、信頼に基づく顧客基盤を強固なものにし、供給者である企業の価値向上につながることは、金融機関のみならず、およそ全ての企業に当てはまる原則だと思います。

資産運用の分野でも、お金を預けてくれた人の資産形成に役立つ金融商品・サービスを提供し、顧客に成功体験を与え続けることが、商品・サービスの提供者たる金融機関の評価を高め、その中長期的な発展につながることは当然のことです。マイケル・ポーターは、これを「共通価値の創造」と呼びましたが、金融機関による共通価値の創造は、顧客と金融機関の価値創造に留まらず、経済や市場の発展にもつながるものと考えます。しかしながら、現実を見ると、顧客である消費者の真の利益をかえりみない、生産者の論理が横行しています。特に資産運用の世界においては、そうした傾向が顕著に見受けられます。…

本年2月の我が国における純資産上位10本の投信をみると、これらの販売手数料の平均は3.1%、信託報酬の平均は1.5%となっています。世界的な低金利の中、こうした高いコストを上回るリターンをあげることは容易ではありません。日本の家計金融資産全体の運用による増加分が、過去20年間でプラス19%と、米国のプラス132%と比べてはるかに小さいことは、こうした投信の組成・販売のやり方も一因となっているのではないでしょうか。…

毎月分配型の投信は、引き続き多く販売されていますが、毎月分配型では複利のメリットが享受できないことをお客様に理解してもらった上で投信判断していただくのが「顧客本位」ではないでしょうか。同様に、過去数年間、高い値上がり率を示している投信も人気ですが、こうした投信の販売にあたっては、高値掴みの危険性についても言及するのが「顧客本位」だと思います。さらに重要なことは、商品に係る販売手数料、信託報酬などのコストをお客様に理解していただくことです。こうしたコストについては、単にパーセンテージで示すのではなく、例えば10万円投資した場合のコストを実額で示す方が「顧客本位」だと思います。

こうした話をすると、お客様が正しいことを知れば、現在作っている商品が売れなくなり、ビジネスモデルが成り立たなくなると心配される金融機関の方がおられるかもしれません。しかし、皆さん、考えてみてください。正しい金融知識を持った顧客には売りづらい商品を作って一般顧客に売るビジネス、手数料獲得が優先され顧客の利益が軽視される結果、顧客の資産を増やすことが出来ないビジネスは、そもそも社会的に続ける価値があるものですか?こうした商品を組成し、販売している金融機関の経営者は、社員に本当に仕事のやりがいを与えることが出来ているでしょうか?また、こうしたビジネスモデルは、果たして金融機関・金融グループの中長期的な価値向上につながっているのでしょうか?

ここ数年、友人から「母親が亡くなり遺品の整理をしていると、最近購入したと思われる、お年寄りには到底不向きのハイリスクで複雑な投信が、何本も出てきた」という苦情を聞くことがよくあります。もしかすると、そうした投信を売った営業員の方は、親のところにあまり顔を見せない子供たちに代わって、お母様の話し相手になっていたのかもしれませんが、これにより子供たちの当該金融グループに対する評価はどうなったでしょうか?こうした営業は長い目で見て顧客との信頼関係を構築する観点から本当にプラスでしょうか?

客観的な数字でみても、リーマンショック後の2009年から2015年までの6年間で、我が国の銀行預金は全体で589兆円から730兆円へと140兆円増加したのに対し、銀行の窓口販売による投信残高は、同じ期間に23兆円から22兆円に微減しています。更に長いスパンで見ても、家計金融資産に占めるリスク性資産(株式・投信等)の保有割合は1990年の13.2%から、2015年には14.5%とほとんど増えていません。…

どうですか、日本の金融当局者から、これほど辛辣な証券業界の批評を聴けるとは、思いもしなかった。しかし、筆者のように長年、証券会社の営業マンと付き合ってきた者には、森長官の批判は納得出来るし、誠に的を得た指摘であると考える。その意味で、森長官には、まだまだ現在のポストで頑張って欲しいと思った次第である。