北朝鮮情勢と石油事情

北朝鮮情勢が緊迫している。トランプ米政権は、軍事行使を選択肢に含む牽制の動きを続けると同時に、中国に対しては対北制裁の強化を迫っている。特に、原油・石油製品に関しては、中国が北朝鮮の輸入量のほとんどを担っているだけに、その動向が注目されている。しかしながら、中国の石油輸出に関しては、「中国にとって、最後のカード」(外交筋)というだけに、さらなる危機的状態にならなけば、石油の禁輸措置を発動しないようだ。

そこで、北朝鮮の石油事情を紹介したい。冷戦終結の1990年以前は、北朝鮮は毎年、中国と旧ソ連から友好価格(国際市場価格の3分の1ないし50%の価格)という経済援助によって、安い原油・石油製品を輸入していた。更に、別口の経済支援策で、石油の支援を受けたので、正確な輸入量を把握出来ない。だが、貿易統計から推測して、中国から約120万㌧、旧ソ連から約80万㌧、中東諸国から約50万㌧の原油を輸入していた。つまり、北朝鮮は当時、年間250万㌧の石油を確保していたのだ。

冷戦が終結すると、ロシアはハードカレンシーよる決済を求めたことで、統計上1987年が80万㌧、88年が64万㌧、89年は50万㌧とだんだん減少して、90年には5万㌧に激減している。その後、統計上の数量は少ないが、水面下では石油を輸出していたハズだ。

中国の原油輸出に関しては、03年12月14日付け「読売新聞」が詳しい。それによると、中国の原油輸出は、中朝間の石油パイプラインで行われているが、その油送管は直径40㌢・㍍ほどで、保安と盗難防止から地中に埋設され、鴨緑江では川底に敷設されている。中朝両国が石油パイプラインの建設に合意したのは72年で、着工は74年2月、75年末までに完成し、76年1月に開通した。パイプラインの油送量は、年間最大400万㌧可能であるが、90年代前半は、年間110万㌧〜80万㌧だった。そして、99年には31万7000㌧まで減少し、02年は47万2000㌧と前年を10万㌧下回った。

最近の石油輸出量については、貿易統計で、12年は約52万㌧、13年は約58万㌧と発表している。ところが、北朝鮮が13年2月、中国の反対にも関わらず3回目の核実験を行ったことと、同年12月に張成沢を処刑したことで、14年以後の貿易統計では、中国からの原油輸出量は“ゼロ"となっている。しかしながら、実際には年間50万㌧前後の原油をパイプラインを通じて、輸出しているようだ。ただ、北朝鮮向けの原油は、質が悪い大慶油田産であるので、パイプラインの擬固防止のために供給を停止出来ないという事情もあるようだ。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は、4月12日から「原油供給の制限も辞さない」と繰り返し警告しているが、石油の禁輸措置は中国にとって“最後の手段"である以上、簡単に切れるカードではない。日本の多くの北朝鮮専門家も「北朝鮮人民の生活維持を考えたら、全面的な供給停止を行うことはない」との見解を示している。しかし、北朝鮮人民にまで影響が及ぶような制裁を加えない限り、金正恩体制を揺るがすことは出来ない以上、中国の石油の禁輸措置に注目せざるを得ない。我々は、中国の原油輸出に何らかの変化が生じていないか、最も注目して見て行かなけならない。

それにしても、金正恩体制が絶対に“核とミサイル開発"を放棄しない以上、トランプ政権は韓国と日本に被害が出ても、軍事力の行使に踏み切ると考える。つまり、絶対に“北朝鮮の核とミサイル開発を放置しない"ということである。まさに、現在の北朝鮮情勢は、いつ何時、朝鮮半島で戦火が始まってもおかしくない状況にあり、その点を理解して、北朝鮮情勢を見つめて欲しいのだ。