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「吉村昭記念文学館」がオープン

「戦艦武蔵」「関東大震災」「ポーツマスの旗」「桜田門外ノ変」「高熱隧道」「闇を裂く道」「ふぉん・しいほるとの娘」「長英逃亡」「生麦事件」「大黒屋光太夫」などの作品で知られる作家・吉村昭(1927〜2006)の足跡を展示する「吉村昭記念文学館」が、3月26日、出身地の東京都荒川区にオープンした。同館は、吉村氏の存命中から計画されていたもので、本人の了解を得て、荒川区が建設した複合施設「ゆいの森あらかわ」の一画に開設したものである。

という訳で、3月下旬に複合施設を訪れたが、同館は図書館の2・3階の一画に開設したという感じであった。展示品の中には、自宅の書斎が忠実に再現されたり、特注した机や来館者が座れる椅子も置かれていた。更に、蔵書を展示したり、吉村作品を映画化した「桜田門外ノ変」を上映していた。この映画は、以前に映画館で観たが、改めて鑑賞してしまった。

展示品を見ていたところ、老人二人が吉村氏を批評していたので、筆者が「吉村さんと会ったことがあるのですか」と尋ねたところ、一人が「一度だけ会ったことがある」との返事。そこで筆者が「私は、電話で一度だけ話したことがあるが、一度会ってみたかった。でも、奥さん(作家・津村節子)がある雑誌で『気難しい人だから、会った人は愉快ではなかったと思う』と書いていたので、会わなく良かったのかなぁ」と述べたところ、その人は「まあ、そうだなぁ」との返答であった。

筆者は、以前から吉村氏の作品が大好きで、8〜9割り方は読んでいる。最初に読んだのは、北海道開拓時代(1915年12月)に起きたヒグマ事件で、一頭の巨大ヒグマが一週間にわたって開拓部落を襲い、七人を食い殺して三人に重傷を負わせた悲惨な事件を扱った小説「羆嵐」(1977年刊)である。その後、作品が発売されるたびに購入してきたが、昔から知り合いに「吉村昭を知っているか」と尋ねるが、意外に知らない人が多い。特に、女性で知っている人は、ほとんどいない。男性と女性の関心の違いと同時に、男女の脳の違いを感じてしまう。吉村作品は、徹底した資料調査や関係者の証言収集で書かれているので、吉村氏は「記録小説」の大家と言われている。筆者にとっては、歴史小説の大家・司馬遼太郎と並び称される作家と考えているが、残念ながら余り知られていない。

そうした中で、2011年3月11日に「東日本大震災」が起き、その後の13年6月11日、天皇陛下荒川区の区立日暮里図書館で開催中の企画展「吉村昭『海の壁』と『関東大震災』」を観覧した。この報道に接した際、筆者は「天皇陛下は、吉村昭の作品『三陸海岸津波』を読んでいれば、原発を10㍍以下の地盤に建設しなかったハズだ」という“無言の抗議"を感じた。筆者も、同じ考えであったので、非常に嬉しくなった。

そのほか、吉村作品には、北海道に関する作品も多く、前述の「羆嵐」のほか、北海道開拓の囚人を扱った「赤い人」、網走刑務所の脱獄人を扱った「破獄」などがある。特に「羆嵐」に関しては、一昨年に文庫本として発売された「慟哭の谷ー北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件」(著者・木村盛武)を読んで、吉村氏が書いた背景を知った。それによると、「羆嵐は、木村氏の書いた資料を参考に書かれたもので、その資料が前記の文庫本なのだ。また、その文庫本の中に懐かしい名前を発見した。著者(1920年生まれ)が、小樽水産学校時代の1938年8月13日、実習生として北千島幌莚(パラムシル)島を訪れた際、級友の「高見佳兵衛(元道立遠軽高校教諭)」と一緒に山に入った。ところが、2,30分ほど前に先発した二人のうち一人がヒグマに惨殺され、その死体を発見したという。最初は、高見佳兵衛のことを思い出さなかったが、更に「同級生で柔道二段の猛者、高見佳兵衛君」と書かれた部分で思い出した。確かに、筆者の在学中に簿記の先生で、体付きのがっしりした柔道部顧問の先生がいたことを思い出したのだ。特に名前が珍しいので思い出したが、まさか、あの先生が、あのような経験しているとは、と驚いてしまった。

最後は、同館に対する要望である。以前から全国各地の博物館や記念館の問題点として、パンフレットの有無について指摘してきた。ご多分に漏れず、同館にもパンフレットが備えられていなかった。筆者が受け付けの案内人2〜3人に「パンフレットを置いていないのですか」と尋ねたところ、「来年夏ころにはできる」という返事。そこで筆者が「日本の博物館は、どこも問題がありすぎる」とクレームを付けたところ、案内人は「オープン前まで多忙であった」と弁解した。しかしながら、遠来の熱心な来館者に対して、“何の資料も持ち帰りさせなくて良いのか"と思うのだ。パンフレットがあれば、より吉村昭氏に対する理解が深まり、来館者も増えて、同館が繁栄すると思うのだが…。