北朝鮮問題のあれこれ

一昨日、約2時間にわたって北朝鮮問題のセミナーが開催された。講師は、著名な新聞記者と経済専門家の二人で、参加者は外国からロシア、中国、北朝鮮の大使館員やマスコミ関係者、日本から新聞記者や北朝鮮研究者など約30人。

講師の主な発言を箇条書きにする。○金正男は、中南米に会社を持つており、生活には困っていない。

共産主義国家の権力闘争には、普通①イデオロギー②路線③政策④利権ーの4つのパターンがある。昨年12月の張成沢処刑は、利権対立と思う。特に、北朝鮮の最大の外貨獲得源の一つである石炭輸出をめぐるトラブルが、一番の原因と思われる。

張成沢の人物像については、北朝鮮国内で2つの見方がある。一つは、面倒見が良くて、人が黙って寄ってくる人物像。もう一つは、甥のマレーシア大使を通じて蓄財に励む人物像。どちらが、本当の人物像なのか、まだわからない。

○従来、張成沢は崔竜海との権力闘争に敗れて処刑されたと見られていた。ところが、1月20日以降、崔竜海は金正恩に同行せず、最近同行した写真では、金正恩の後ろの方で映っている。そのため、崔竜海も張成沢と同じような難しい立場にあるのではないか。

○最近、浮上してきたのは、張成沢の処刑前、三池淵に集まった金元弘・国家安全保衛部長ら8人で、「三池淵グループ」と言われている。更に、張成沢派と見られていた朴奉珠首相。また、北朝鮮内部から60歳定年制との情報が漏れているので、定年制という理由で解任される人物が出てくる可能性がある。

○最近、中朝国境に中国兵が10〜15万人増強されている。そのため、国境付近に居住している中国人が、非常に不安がっている。その背景には、張成沢の処刑判決文に「石炭をはじめとする貴重な地下資源をむやみに売り飛ばした」と中国を刺激する部分。そして中国の習近平政権は、前政権よりも北朝鮮に対して、強硬であることも不安を増幅。

○本日、中国側から中朝間の貿易総額が発表された。それによると、昨年度も前年比8、6%伸びて、総額約65億ドルになった。中国の輸出品は石油や食料、輸入品は石炭や鉄鉱石である。

最後に参加から「最近、小泉元首相の元秘書・飯島氏が『北朝鮮の地下資源価値は2〜3兆ドル』との週刊誌報道があるが、実際はどうなのか」との質問が出た。講師も答えていたが、実は私も以前、北朝鮮の地下資源について勉強したことがある。以下の文面は、私の解説である。

○戦前から朝鮮半島(特に北部)は、「鉱物の標本室」と言われるくらい鉱物の種類は多い。しかし、量と質に問題がある。

○例えば、鉄鉱石。粘り気がないので、伸ばしたり、薄く加工できない。石炭も熱カロリーが低いので、高級鋼材の生産にむかない。

○金鉱山として雲山がある。戦前は東洋一の鉱山であったが、戦後は採掘されていない。そこで、70〜80年代に北朝鮮側の呼びかけで、在日朝鮮人や日本人が調査したが、落盤や地下水が湧き出し、莫大な投資が必要と判断された。

○原油開発は、1980年前後から南浦の沖合で、外国資本の協力のもとにボーリングを実施したが、生産に成功したという報道はない。しかしながら、中国は渤海湾で年間5000万トン前後の原油を生産。それを考えると、北朝鮮側からそれなりの生産量があっても不思議でない。

という訳で、飯島氏の発言内容は、全く根拠のない話しではないが、資源としての価値は低い。

北朝鮮側は、自国の地下資源を開発するためには、高度な技術と莫大な投資が必要であることを知っている。そこで、北朝鮮関係者や在日朝鮮人を通じて、日本の有力政治家に対して「早く投資した企業には、特権を与える」と囁く。その成果が飯島氏の発言に繋がる。

思い返すと、北朝鮮側は40年前から、在日朝鮮人などを通じて、様々な囁きを日本側にしてきた。その囁きに乗って、多くの在日朝鮮人や一部日本人が北朝鮮に投資したが、成功した事例はほとんどなく、多くの人は多額の財産を失った。そのような経緯を考えると、飯島氏の発言は、軽率な面がある。

北朝鮮の地下資源のデータは、戦前に鉱山を経営していた会社が保持している。例えば、日本鉱業(現JX)や三菱マテリアルなどである。その意味で、北朝鮮の自立的な経済発展には、絶対に日本の高度技術が必要である。日本は、何も焦る事はない。