JR北海道に浸透する過激派「革マル派」

本年8月4日に、過激派「革マル派」を取り上げた新刊書「暴君 新左翼松崎明に支配されたJR秘史」(著者=牧久、初版4月28日、480ページ)を紹介したが、10月3日にも新刊書「トラジャ JR『革マル』三〇年の呪縛、労組の終焉」(著者=西岡研介、624ページ)が発売された。そして、10月発売の新刊書は235ページにわたって、JR総連傘下の「北海道旅客鉄道労働組合」(JR北海道労組、約5300人)のことが記されいる。そこで、先ずは同書に記されているJR北海道労組の現状から紹介する。

JR北海道労組は、JR北海道社員6797人のおよそ8割、約5300人が加入する同社の最大組合だ。そのJR北海道において、国鉄・JR関係者から「JR北海道労組の首領」、あるいは「北海道の松崎(JR北海道における松崎明)」などと称されているのが、元JR北海道労組中央執行委員長の佐々木信正(72歳、委員長・99年〜09年、顧問・〜19年6月)である。

○昔、動労北海道ではかつて、『戦闘的な青函(地本)』、『階級的な旭川(地本)』と言われていた。『戦闘的な』というのは文字通り、当局や他労組との物理的な闘争に強いという意味。一方、『階級的な』というのは、労働者階級としての、運動理論や革命理論に強い、要するに頭がいいということだ。が、この2地本に対し、『戦闘的かつ階級的な釧路』と称されたのが、釧路地本だった。道内でも『最強の地本』といわれ、その組織を作った一人が、佐々木氏だった。

○現在のJR北海道労組組合員の組合費〈基本給×2%(上限6200円)+1000円〉は、基本給30万円の場合、毎月7000円の組合費が給料から天引きされる。同じく、基本給30万円のJR東労組組合員の場合、組合費は月額7700円(上限なし)、JR西労組は月額6500円(上限7000円)、JR東海ユニオンは月額5600円(上限6000円)だ。

引き続き、「異常な組織」であるJR北海道労組という組合が、なぜ故に全国的に知られてこなかった背景を紹介する。

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07年当時、私は主として、JR東日本の労使関係を取材していたのだが、その過程で、JR東日本よりむしろ、JR北海道の労使関係のほうがより歪で、深刻であることを知り、JR北海道関係者の取材も同時並行で進めていた。

しかし当時は、JR北海道の労使問題について取り上げてくれる雑誌などの媒体は皆無で、結果的に“お蔵入り"させてしまったのだ。

当時のメディア業界にはまだ、第3章で触れた「週刊文春キオスク販売拒否事件」以来の“JR革マルタブー"が残っていたのかもしれない。また年間、約65億人(19年3月現在)が利用する日本最大の鉄道会社、JR東日本の労使関係をテーマにしたノンフィクションと、1年の利用者数がその2%に過ぎない、JR北海道の労使関係に焦点を当てたそれとでは、読者の関心に格段の差があるーという媒体側の理屈も理解できた。

だが、当時の在京メディア関係者の鈍い反応の根底には、北海道という「一地方」が抱える問題を軽視する意識があったのではないかーと、地方紙出身の私は、今でもそう思っている。(「トラジャ JR『革マル』三〇年の呪縛、労組の終焉」より)

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要するに、JR北海道労組の実態は、どのJR労組の中でも最悪の現状にも関わらず、誰も関心を示さず、メディアは“ほったらかしにしてきた"というのだ。確かに、本書を読んでみると、革マル派にまで批判されるJR北海道労使の“癒着ぶり"には、激しい怒りを覚えた。例えば、前述の佐々木氏が、他の組合員の結婚式への関わりについて、次のように語っているからだ。

ー「最近、結婚式問題というものがありまして、あちこちで若き仲間が結婚する。この結婚式の時、鉄産労とか国労の諸君を無意識に呼んでしまう。あちこちで起きている。これを止めましょうと言わしてもらっているんです。本当にに他組合の解体の闘いをして、その組合員との論争を挑んでいれば、その組合員を結婚式に呼ぶとは絶対ならないわけです。新郎の彼らは論争を挑んでいないから、だから鉄産労を結婚式に呼ぶわけです。

鉄産労を結婚に呼ぶということは、鉄産労・国労解体の闘いを放棄している自分だということの紋章なんです。そのことがあまり分かっていない。平成採(用)の方々はそのような方針があることすら知らない。だけど、僕は思いますけどそんな連中(鉄産労・国労)の薄っぺらな祝福を受けてまで結婚式挙げたいですか?職場の我が組合員に手作りで結婚式をつくってもらって、そしてみんなで祝福すればいいじゃない。そこまで組合は介入するな、と言われるから私は『介入します』と言っています。組合員には権利もあるけど義務もあるんです」(「トラジャ JR『革マル』三〇年の呪縛、労組の終焉」より)ー

つまり、佐々木は未だに「共産主義革命」を目指して、このような発言をしているのか?。いや、居心地のいい労組のトップに安住したいから、このような発言をしているのだ。何故なら、誰も我が国では「共産主義革命」を望んでいないからだ。いずれにしても、JR北海道労組は、この後も佐々木の提起したこの「方針」を忠実に実践しているようだ。

続いて、最も知りたい、JR北海道中島尚俊社長の自殺(2011年9月12日失踪、6日後に遺体発見)の背景を把握したい。先ずは、JR北海道の他の労組の動きを押さえたい。03年10月、JR北労組(当初は組合員数約1300人で、JR北海道社員の16%)が結成された以降、JR北海道労組の「平和共存否定」路線はより激しいものになったという。

ー実は佐々木氏の提起した「平和共存否定」路線を忠実に実践していたのは、JR北海道労組だけではない。当時のJR北海道経営陣もまた然り、だったのだ。

07年1月、JR北労組の田原孝臓・中央執行副委員長(当時。後に中央執行委員長。現在は退職)は、私の取材に、それまでのJR北海道の労政の変遷についてこう話してくれた。

JR北海道の発足(87年)当初、会社は北海道鉄産労との間で『労使共同声明』を締結し、両者は強調関係にありました。その後も数年は、特に会社と(鉄産労が)対立することもなく、労使関係は平穏に推移していたのです。

一方、国労は、JR北海道の発足当時から『不採用問題』(「1047人問題」)を抱えていたことから、会社とは険悪な関係が続き、90年4月からは(会社側は)国労との労働協約の締結も拒み、その後も拒み続けました」

JR北海道は発足当時から、JR北海道労組と「労使共同宣言」を締結し、この「宣言」基づいた労使協調関係は、今日に至るまで続いている。これに対し、北海道鉄産労と締結したのは「労使共同声明」だった。

この似た名称の「宣言」と「声明」は、労使協調を謳っているという点では共通しているものの、それらを締結した会社の「意志」において違いがある。後に証言するJR北海道の幹部OBによると、「『宣言』が会社の決意を示しているのに対し、『声明』はあくまで『関係を築く』という希望的な意味合いに過ぎなかった」という。つまりJR北海道は当初から、二つの組合への対応に差をつけていたのだ。ー

以上のような状況下で、中島専務が4代目社長に就任(07年6月21日)した。そして、総務部関係者は、中島社長が自殺するまでの経緯を次のように語るのだ。

「そもそも組合と(会社と)の対立は、石勝線の事故や、36協定(時間外労働に関する労使協定のことで、労働基準法第36条に基づいていることからこう呼ばれる)違反が起こる(発覚する)4年前、中島さんが社長に就任(07年)してから、ずっと燻っていたんです。というのも、中島社長は、それまでの『一組』(第一組合のこと。JR北海道労組)に偏った労政を変えようとしていた。そして、その中島社長の下で実際に労務対策に当たっていたのが、中島社長就任と同時に、総務部長に就いた島田さんでした」(「トラジャ JR『革マル』三〇年の呪縛、労組の終焉」より)

「特に島田さんが常務に昇格した平成22(10)年以降、彼ら(JR北海道労組)は(島田氏から)完全に抑え込まれていました。この中島ー島田体制での労政に不満を募らせていた一組は、(改善措置)報告書をめぐる(労使の)協議にも、応じようとはしなかったのです」(「トラジャ JR『革マル』三〇年の呪縛、労組の終焉」より)

「社長就任以来、それまで20年近くに及んだ、異常な労政からの転換を目指していた中島社長にとって、この合意文書(会社側、組合側双方の36協定違反問題についての見解や、今後の労使関係についての要求が明記されている)にサインしてしまえば、自らの労政改革を否定するだけでなく、JR北海道の労政を、旧国鉄時代まで逆戻りさせてしまうことになる。よって、この合意書にサインするくらいなら、自ら命を絶とうと考えられたのだと思います」(「トラジャ JR『革マル』三〇年の呪縛、労組の終焉」より)

以上の経緯を知ると、故・中島社長と現・島田社長は「JR北海道の異常な労使」からの脱却を目指していたことが解る。その意味では、健全な国民は島田社長を支えなければならない。

さて、最後は今後の注目点を書きたい。現在、JR東日本では今、中堅、若手社員を中心に、「組合不要論」が広がっているという。そうした中で、2018年の春からJR東日本労組から3万6000人(19年8月現在)の組合員が脱退している。それを考えると、JR北海道の最大労組、JR北海道労組にもいずれ波及することは間違いない。つまり、いつJR北海道労組から大量の組合員が脱退するのが、次の関心事になった。

最後は、これだけ詳細にJR北海道の問題点を指摘してくれた本書の著者・西岡研介氏に感謝したい。そして、JR北海道に関心ある人は是非とも本書を読んで欲しい。そして、今後もJR北海道労組と革マル派との関係に注目していきたい。